https://anond.hatelabo.jp/20210907184611 の続き
たとえば、以下のような問題を考えます。演習問題に限らず、教科書の本文や、解答の一文一文も「証明問題」だと捉えてこのような態度で読み解く必要があります。
x2 - 2a|x| - b = 0
それほど典型的な問題ではありません。少なくとも、何か簡単な公式があって2aやbなどを代入すれば答えが出てくる、というものではありません。
この問題を解くには、左辺の式が何を意味しているのか理解していなければいけません。これは、何か上手いやり方があって機械的に解ける場合でもそうです。
とxの二次式になるので、既に知られた方法で解の個数を求めることができます。ただし、たとえば方程式f≧0(x) = 0の解は、x≧0を満たすものだけを数えることに注意が必要です。したがって、単に判別式の符号を調べるだけでなく、二次関数f≧0(x)のx≧0の範囲での増減を調べる必要があります。x<0の場合も同様です。
結局、この問題を解くには
ということができる必要があります。特に前者を理解していないのは、問題文の式が何を意味しているのか分かっていないということですから、解法を覚えるとか言う以前の問題です。当然、これらが分からなければ調べたり他人に聞く必要があります。その際は、定義の数式を形式的に覚えたり当て嵌めたりするだけではなく、具体例を通じて、その意味を理解する必要があります。絶対値記号|x|であれば、xが正の数ならどうなるのか、負の数ならどうなるのか、y = |ax + b|や、y = |ax2 + bx + c|のグラフの概形はどうなるのか、等。
もし二次関数を調べた際に平方完成が分からなければ、それも調べる必要があります。平方完成を調べて文字式の展開で分からないところがあれば、それも調べる必要があります。そもそも、二次方程式を解く際になぜ(一次方程式では必要無かった)平方完成をするのか。そういった問題が解ける理屈(あるいは類似の問題と同じやり方では解けない理屈)を理解している必要があります。
また、自分で問題を解いて、たとえば場合分けの仕方が解答と異なるならば、それらが本当に同値なのかをきちんと確かめる必要があります。最初のうちは計算ミスをして符号などが逆になることもあるでしょうが、それもどこで間違えたのかをきちんと確かめる必要があります。
そういうことをすべて完璧にこなして初めて、この問題を理解したと言えるのです。
以下、解答例を載せます。匿名ダイアリーなので文字のみですが、実際は図を付けた方が良いでしょう。
f(x) = x2 - 2a|x| - bとおくと、
f(x) = 0の実数解の個数は、y = f(x)のグラフと、y = 0のグラフの交点の数であるから、これを求める。
とおく。y = f≧0(x)のグラフは、(a, -(a2 + b))を頂点とする下に凸な放物線で、y軸との交点は-bである。一方、y = f<0(x)のグラフは、(-a, -(a2 + b))を頂点とする、下に凸な放物線で、y軸との交点は-bである。
したがって、y = f(x)のグラフは、y = f≧0(x)のグラフのx≧0の部分を、y軸に関して対称に折り返した形をしている。
f(x)は、x = ±aで最小値-(a2 + b)を取る。したがって、y = f(x)のグラフとy = 0のグラフの交点の数は、
f(x)は、x = 0で最小値-bを取る。したがって、y = f(x)のグラフとy = 0の交点の数は
以上、(1-1)〜(1-5), (2-1)〜(2-3)がf(x) = 0の実数解の個数である。
上の解答例ではy = f(x)のグラフの位置関係を用いましたが、もちろん、f≧0(x) = 0、f<0(x) = 0の解を実際に求めても解けます。
この場合は、それぞれの解がx≧0、x<0を満たすかどうかを確かめる必要があります。そして、それぞれの場合でf≧0(x) = 0のx≧0を満たす解の個数とf<0(x) = 0のx<0を満たす解の個数を足したものが答えになります(x≧0とx<0に共通部分は無いので、これらを同時に満たすことはありません)。
f≧0(x) = 0の解は、
x = a ± √(a2 + b)
である。同様に、f<0(x) = 0の解は
x = -a ± √(a2 + b)
である。
とおくと、ra(b)はa2 + b≧0の範囲で定義される。また、ra(b)はbに関して単調増加であり、ra(0) = |a|である。つまり、f≧0(x) = 0およびf<0(x) = 0の2つの解が同じ符号を持つか否かは、b = 0を境界にして分かれる。
したがって、a2 + b≧0のとき、f≧0(x) = 0の解は
同様に、f<0(x) = 0の解は、a2 + b≧0のとき、
また、D < 0の場合は、f≧0(x) = 0、f<0(x) = 0ともに実数解を持たない。
以上をまとめると、f(x) = 0の解の個数は、以下のようになる。
(1-1) a2 + b<0のとき、0個
(1-2) a2 + b = 0のとき、2個(③と⑥でD = 0場合)
(1-3) a2 + b>0かつb<0のとき、4個(③と⑥でD>0の場合)
(2-2) b = 0のとき、1個(②と⑤で D = 0の場合)
何度も書いているように、たとえばx2 - 2ax - b = (x - a)2 - (a2 + b)などの式変形の意味が分からないのであれば、二次関数の復習をする必要があります。解答文中に出てきた「単調増加」などの用語も分からなければ調べる必要があります。
上記の場合分けが(a, b)のすべての組を網羅しているのか、と言ったことも注意する必要があります。
解答例2の①〜⑥の場合分けは、y = f≧0(x)およびy = f<0(x) のグラフとy軸との交点を考えています。これの符号と軸の位置で、どの範囲にy = 0の解が存在するかが決まります。たとえば、下に凸な放物線がy軸と負の値で交わるならば、x軸とは必ず正負両方の値で交わらなければいけません。逆に、y軸と正の値で交わるならば、x軸とは交わらない(D<0)か、放物線の軸がある方で2回交わります(D = 0の場合は1回)。解答例2ではra(b) = √(a2 + b)という関数を用意しましたが、このy軸との交点と軸に関する条件を代わりに説明しても良いです。このように、数式や条件が図形のどのような性質に対応するのかを考えることも数学の勉強では重要です。
また、「二次関数f(x)が下に凸で最小値が0以下であれば、f(x) = 0は実数解を持つ」ということを認めています。これは明らかに思えるでしょうが、極限を習った後であれば
実数値関数fが区間[a, b]で連続であれば、f(a)とf(b)の間の任意の実数γに対して、γ = f(c)となる実数c∈[a, b]が存在する。
という「中間値の定理」を暗に使っていることを見抜けなければいけません。このような定理が出てきたら、Part1でも述べたように、具体的な関数でどうなっているのか(たとえばf(x) = x2 - 2に対して、f(a) = 0となる実数aが存在することなど)、仮定を緩めたら反例があるのか(たとえばfの定義域が有理数ならどうか、連続でなければどうか)などを確認する癖をつけましょう。
y = x2 - 2a|x| - bのグラフとy = 0のグラフの交点を考える代わりに、y = x2 - 2a|x|のグラフとy = bのグラフの交点を考えても良いです。これは、本問と同値な方程式
x2 - 2a|x| = b
を考えていることに相当します。記述量はそれほど変わらないでしょうが、こちらの方が見通しは良いかも知れません。
仮に本問と異なり、aが定数の場合、たとえばa = 1であれば
y = x2 - 2|x|
のグラフは変数に依りませんから、y = bとの交点を考えるのは容易です。
実際、y = x2 - 2|x|のグラフは、頂点が(1, -1)、y軸との交点が0の、下に凸な放物線のx≧0の部分をy軸に関して対称に折り返した形です。
したがって、この場合は
です。
以上のことは、問題を解く際だけに行うのではなく、教科書本文、問題文、解答例の一文一文を「証明問題」だと思って常に意識する必要があります。
長くなりすぎたので、概要編と実践例に分けます。 本稿では、和田秀樹氏らが提唱している暗記数学というものについて述べます。 受験数学の方法論には「暗記数学」と「暗記数学以...
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