2021-06-18

ローカル5Gでネットワーク仮想化技術の導入が積極的に進められている

5Gで注目されるネットワーク仮想化技術ですが、とりわけローカル5Gではコアネットワークから無線アクセスネットワークまで、仮想化技術の導入が積極的に進められているようです。2021年6月2日より実施されていた「ワイヤレスジャパン2021」からローカル5Gと仮想化技術を巡る動向を追ってみましょう。→過去の回はこちらを参照。

画像】KCCSMEはJMA仮想化RANソリューション活用したローカル5Gネットワーク構築ソリューション提案しており、同社ブースにはJMA製の機器などが多く展示されていた

コアからRANまで仮想化技術をフル活用

2020年末に、5Gの機器のみでネットワークを整備できる、スタンドアロン運用可能なサブ6の4.5GHz帯の割り当てがなされたことを受け、ローカル5Gの市場が急速に盛り上がりつつあるようです。そうしたことからワイヤレスジャパン2021においてもローカル5Gに関する展示や講演が多くなされていました。

JMA仮想化RAN(vRAN)の技術に力を入れている企業の1つで、KCCSMEはJMA2020年11月に協業を発表。同社の機器を用いたローカル5Gソリューション提供するようです。そうしたことから、会場ではJMA提供するvRANソリューション「xRAN」や、複数電波活用して障害物が多い屋内でもミリ波で広範囲カバーできる無線機「IOTA」などが展示されていました。

しかもKCCSMEはRANだけでなく、コアネットワークにも仮想化技術を用いたローカル5Gのネットワーク構築を推し進めようとしているようです。実際、同社はコアネットワークにイタリアベンダーであるAthonetの仮想化アネットワークソリューション採用しており、物理的な設備必要アンテナ部分を除くとネットワークのほぼすべてを仮想化技術で実現しているようです。

ローカル5Gと仮想化技術の相性がいい理由

同様に、仮想化技術を取り入れてローカル5Gの環境構築を進めようとしているのがネットワークインテグレーターのレンジャーシステムズです。同社はノルウェーのWorking Group Twoという企業のコアネットワークを用い、ローカル5GやsXGPなどの自営モバイルネットワーク構築を進めているとのことです。

Working Group Twoのコアネットワークは、仮想化技術クラウド上に構築されているのが大きな特徴。それをSaaS形式提供していることからネットワーク知識を持たない企業であってもアクセスポイントと端末、インターネット回線を用意し、月額料金を支払えば利用できるという手軽さで本格的な自営ネットワークを構築できるのが大きなポイントとなっているようです。

なお、同社の説明によるとWorking Group Twoのコアネットワークは現在、sXGP向けとして提供しているとのことですが、2021年中にはローカル5Gへの対応も進めるとしています

このほかにも、エレクトロニクス製品商社である丸文がAthonetのコアネットワークを活用したローカル5Gのネットワーク構築ソリューションを講演で解説するなど、ローカル5Gではネットワーク仮想化技術の導入に積極的な動きを見せる企業が多く見られた印象です。その理由は大きく2つあると考えられます

1つはコストです。ローカル5Gを導入するのは携帯電話会社より規模の小さい企業なので、いかに低コストネットワークを構築できるかが重要になってきます

その点、仮想化技術を用いたネットワークでは汎用サーバなどを用いるため、専用の機器調達するよりもコストが大幅に抑えられますし、Working Group Twoのようにクラウド上に構築されたコアネットワークを活用すれば、機器導入にかかる初期コストも抑えられることからメリットが大きいと言えるでしょう。

そしてもう1つは規模です。いくら仮想化技術が進み、仮想化されたRANやコアネットワークを使ってネットワーク構築が可能になったとしても、専用の機器で構築されたネットワークと比べれば消費電力やパフォーマンスなどで劣ることは確かで、規模の大きな携帯電話会社にとってはそれが導入のハードルとなっています(第29回参照)。

しかし、ローカル5Gはそもそも展開する場所が限られていますし、接続する端末も携帯電話会社と比べればはるかに少ないため、ネットワークにそこまで高いパフォーマンス必要とされておらず、逆に大手ベンダー機器では高額でオーバースペックになってしまうことも多いようです。仮想化ネットワークパフォーマンスで十分対応できる規模だというのもローカル5Gで採用が進む大きな要因と言えるでしょう。

そうしたことからローカル5Gと仮想化技術は非常に相性がいいと考えられますし、これから新規ネットワークを構築するケースが大半を占めることからしがらみも少なく、新しい技術を導入しやすいこともあって、ローカル5Gでは仮想化技術積極的活用される可能性が高いと言えるのではないでしょうか。

佐野正弘

福島県出身東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。

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