2018-12-16

ふれたかったのは君らしさ

彼の住んでいるらしい町に降り立つのはもう10回目以上だった。この1年、私は自分実家がある町よりも彼の町に足を運んでいる。私の住んでいるところから彼の町なんて新幹線でも3時間半かかるというのに。彼の町に行ったところで彼には会えないけれどそんなことはどうでもよかった。

彼が、彼の人格をきっと形成した場所に、今日は初めて行った。私はものすごく寒がりで、冷え性で、体力もなくて、暗いところも嫌いで、でもいつか彼とデートするときに着たいななんて試着室で思ってカードを切った膝上丈のマーキュリーデュオワンピに履いてないも同然の薄いストッキング、8センチヒールブーツで、駅から20分私は歩き続けて、彼の痕跡今日も辿った。

野球グラウンドに降り立つの人生でも初めてだった。彼と出会う前もなかったから、初めてをまた彼に捧げられた気がして、嬉しかった。私はたくさんの初めてを彼に捧げてきたけど、彼はそのどれも、私が初めてだったことさえ知らないんだ。

グラウンドに踏み入る前、少し緊張した。一呼吸してから一歩踏み出した。数歩歩いたところで、公園電気が全て消えた。どうやら夜10時で消灯するようだった。あまりにも暗くて、ケータイライトで足元を照らしたがあんまり意味はなさなかった。

10月の末に、この公園の外から野球練習をする少年たちとコーチ大人を眺めたことがあった。彼は、野球を辞めてからもう4年が経つのに、今も野球がきっと大好きだし大切だ。そういう彼も好き。YouTubeで見た彼の声の出し方と、この時見たキャッチャー男の子の声の出し方が同じで、また彼らしさに触れられた気がして、嬉しかった。

真っ暗だし、一塁や二塁のベースも置いてなくて、でも彼の位置まで歩いた。途中、少し盛り上がってるところがあって、ここがピッチャー位置か、この前わたしキスされた彼の元相棒は、ここから彼をずっと見ていたのか、など考えた。

キャッチャーの、位置についた。なんと呼ぶのかもわからない。ホームベース、でいいのだろうか。ただ、絶対に数年前彼がいた場所だった。彼は、ピッチャーを勧められたこともあったけど真剣な顔のバッターと向き合うと笑ってしまうからだめで、オレはマウンド全体を眺める方が好きだった、と以前話していたことを思い出した。グラウンド、初めてこんな位置から見たけれどすごく広く感じた。ここで、彼はグラウンドに響き渡る大きな声を出し続けて、チームメイト鼓舞し続けて、成長してきたんだ。

なんとなく目の奥が熱くなって胸が苦しくなった。寒いからだと自分言い訳しながら、一塁ベースがあるだろう方に歩き出した。グラウンドを歩きながら、何人か覚えた彼の元チームメイト達の名前ポジションが頭をよぎった。彼は、私がこんなことまで記憶しているなんてさすがに思ってもいないだろう。

こんなこと彼じゃないとしない。家の中ですら真っ暗なところは歩けないし、中一の時男の人に追いかけられたこともあるし夜道を1人で歩き続けるなんて怖くて仕方がない。でも彼は、やっぱり私にとって特別で、大好きで、なんでもいいから彼を今夜感じたかった。

グラウンドを歩いて、そろそろ出ようと歩きながら、また彼との思い出がありすぎることを思い出した。彼を好きになって、もう2年が経つ。特にこの1年は、私にとっては奇跡運命を感じる出来事ばかりだった。でも、そのどれをとってもきっと彼にとっては運命なんてものではない。その事実が私を改めて苦しめた。だからと言って好きなのをやめる気には全くならない。

なんとなく、彼がそうするんじゃないかと思って、グラウンドを出て、振り返って一礼をした。私の中の彼はきっとそうするんだ。

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