はてなキーワード: あすの会とは
ランチで食べたおいしいサンドイッチのことなんか、もうとっくに頭にはなかった。
そろそろ日も入り方になるころ、俺はこの日の仕事を終わらすために、パソコンの画面に食いつきながら、エクセルにせっせと文字を打ち込んでいた。
昨日もおなじように頑張ったけれど、ついに定時までには終わらず、夜遅くまで残業した末にやっと家に帰って、先週借りたままだったDVDをぼうっとした頭でみたのだった。
かたい決心をもって根気よくパソコン画面に対していた。
陽気な上司がぽんぽんっと俺の右肩をたたいてくる。
妙なにやにや顔で、あすの会議についてながながしゃべり立てる。
今やっている仕事とはまったく関係のない話を聞かされたら、ふたたび仕事に取りかかるより前に、みずからのデスクへ戻る上司の背中の上にある、掛け時計の示す時間が、有無を言わさず俺の視界に入ってしまった。
ああ、きょうも終わらないや。
先週借りたもう一本の、新人さんのやつ、風呂上がりにゆっくり観るつもりだったのに。
きょうはきのうと同じで、また同じようなあしたへとつながっていくんだ。
はあ。
まさにそのときだったのだ。
若い女子社員が懸命に仕事をしているはずの、俺のはす交いのデスクから、ぐうぐうぐうと、大きい音なのに少しもいやな感じを起こさせない、きもちよさそうなイビキ声がきこえてくる。
この忙しいときに部下が寝てやがる。
でも俺は、怒るどころか、起こす気にもなれなかった。
まだお昼寝タイムになっていないのに眠ってしまった保育園児を、起こさずにほほえましく見つめている先生みたいに、いとおしい心地にひたりきって、ただただ彼女を見守るばかりだった。
ぐうーぐうーぐうーぐうー。
いつも鋭い目つきでばりばり仕事をする彼女からは想像もできない、とろんとしたお目目と、ちょっとよだれが垂れてる半びらきのかわいいお口。
おい、このやろう、寝やがって、ばかやろう、ばかやろう。
小声でつぶやいたら、なぜか笑いをこらえきれなくなったので、俺はもういちど真剣な目をつくり、よしっと気合いを入れてパソコンの画面に向き直った。