2021-11-27

福知山線脱線事故記憶

といっても事故にあったわけではない。 

私は当時、福知山線終点に近い町に住んでいた。

事故を聞いたのは授業前、担任が「なんか福知山脱線事故があったらしいよ」と言いながら教室に入ってきて、少し教室がざわついたものの、いつも通り授業が始まった。私は今朝も「福知山行き」と書かれた電車に乗って学校に来ていたので、なんとなく落ち着かない気持ちで授業を受けていた記憶がある。

事故後も私は学研都市線を使って大阪京都を往復する生活だった。学研都市線福知山線に繋がっているので、時々事故のご遺族の方や、被害者の方を見かけた。

帰りの電車の中、ぎゅうぎゅうに詰まった電車の中で骨壺を抱いていた喪服の男性最初気づいた時には驚いたが、男性は背筋をピンと伸ばして一点を見つめていた。その横顔がとても険しかたことをよく覚えている。その表情を見て、周りの人も脱線事故のご遺族の方だとわかったのだと思う。途中で中年女性の方が男性に声をかけていた。何を話していたかはわからないが、男性は少し頷いて、女性は手を合わせていた。

いつかの昼過ぎ

その日は学校が早く終わり、帰りの電車の人はまだまばらだった。私の近くでカップルが静かに笑い合っていた。

途中、男性二人が電車に乗って来た。大柄の男性と、小柄な男性。二人は私の正面に座った。

大柄の男性は、見た目通りの大きな声で豪快に笑い、小柄な男性はそれを聞いたり突っ込んだりしていて朗らかな雰囲気だった。私はうるさいなと思いつつ漫画か何かを読んでいた。

しばらくして、走っていた電車ゆっくりと速度を落とし止まった。車内アナウンスでは路線障害物が何とかと言っていた気がするが、田舎路線なのでこういう事はよくあった。すぐに動くだろうなと思っていたら、さっきまで目の前で豪快に笑っていた男性が、だんだんと顔色を変えて慌て出した。

最初は「勘弁してくれ」「なにがあったんや」と話してていたが、だんだんそれが早口になっていって「やめてくれ!」「なんで今やねん!」という風に、声を荒げてパニックになっている様に見えた。

隣の小柄な男性がまあまあすぐ動くからと落ち着かせている様だったが、男性背中座席の背もたれに張り付いた様になって、硬直している様にも見えた。そこから男性早口で吐き出すように話し続けた。

福知山線事故にあったこと。ずっと入院してて、今日やっと電車に乗れたこと。一緒に電車に乗った友達は人の形をしていなかったこと。

私は怖くなって下を向いていたが、そこから動くことも出来ず、ただ男性が吐き出す言葉を聞いていた。隣にいた小柄の男性も、なにも言えずに男性に寄り添っていた気がする。時々「大丈夫ですから」と周りに伝えている様な声がしたが、同じ車両にいた人はみんなただただ男性言葉に耳を傾けるしかなかった。

しばらくして電車が動き、男性は次の駅で降りていた。土のようになった男性の顔色をよく覚えている。さっきまで笑い合っていたカップルが「凄かったね…」と声をこぼしていた。事故から数年が経っていた頃だった。

あれからもうすぐ18年目が経つ。

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