2021-08-05

メダルかじり

小学校の2-3年生くらいまで、平日の午後はよく姉とゲームセンターに行っていた。ゲームセンターといっても、ショッピングモールの奥の方にあるゲームコーナーだ。うちは母子家庭母親は働きに出ていた。夕方母親が帰ってくるまで、年の離れた姉がよく自分放課後ゲームセンターにつれていってくれた。といってもうちにそんなにお金はなかったから、1回行くたびに遊べるのは100円分だけだった。レースゲームをやると1回で終わってしまうので、高嶺の花だった。お金を入れずにコックピットに座っていると怒られたので、忙しく移り変わるデモ画面を下の方から眺めていることが多かった。

いちばんよくやったのはメダル落としの台だ。いまでもあるのかどうかわからないけど、当時はどこのゲームセンターにもあったゲームだ。大きな透明カプセルの中にメダルが敷き詰めてあり、中心に2段か3段くらいの台があってつねに左右にゆっくり動いている。台の側面にある細い差し込み口からレバー操作してメダルを投入すると、中に置かれたメダルの幅だけ他のメダルが押し出されて、うまくいけば複数枚のメダルが落ちてくる。ほかにこれといった仕組みはない、単純なゲームだけどなかなか奥が深かった。なによりも1回あたりの料金が安かったかいちばん長く遊べた。姉としても、ずっと同じ台に自分が張り付いて中を眺めていることになるので、楽だったのかもしれない。メダルが取り出し口にカチャカチャンと落ちてくる音を思い出すと、今でもちょっとクワクする。

思い出すのは、何の気なしにメダルをかじった日のことだ。取り出し口から取った銀色メダルを掌において眺めているうちに、なんとなくかじりたくなってしまったのだ。今となっては自分でも理解できない行動だけれど、昔はそういう「なんとなく」があったわけだ。姉はそれを見つけて、汚いよといった。自分はおなかが減ったんだとかなんとかいって返したのだと思うが、詳しくは思い出せない。けれど姉はなんだか寂しそうな顔をして、ショッピングモールの同じフロアにあったファーストフード店自分の手を引いていった。マクドナルドでもロッテリアでもない、今では思い出せない店だ。そこでポテトメロンソーダを買って自分に食べさせてくれた。たぶんあれは姉が自分の小遣いで買ってくれたのだと思う。

それだけの話だ。

小学校中学年くらいになると自分児童館に入ったり友達と遊びに行ったりして、姉の手をかけることはなくなった。姉は高校卒業と同時に地元を離れて看護学校に行って看護師になった。姉が結婚してからまり会うことはなくなったが、姉の子供と一回だけゲームセンターへ一緒に行ったことがある。メダル落としの台がまだあったことに驚いた。そのとき自分メダルを甥に買って一緒にメダル落としをやった。それだけの話だけど、なぜか思い出す。

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