私は吃音症というやつで、うまくしゃべれない。「どもる」というやつだ。
「きよしこ」は、吃音症である重松清の実体験ベース(といわれている)の児童小説。
主人公の「きよし」の小学生~高校生時代を描く短編集の形になっている。
私はこれを読んで、はじめて物語の主人公と自分を重ねるというのを体験した。
今まで読んだ小説、映画、ゲームなどでは、どんなに不器用なキャラクターでも、「普通にしゃべる」ことができていると、「自分とは別の生き物が何かやってるなあ」という気持ちでしか見ることができなかった。
もちろんそれはそれとして楽しめるんだけど、「主人公に自分を重ねる」という楽しみ方とは縁がなかった。
言えないもどかしさで、モノに当たってしまう。
転校か、また自己紹介しなきゃいけない...
母親が吃音を治す教室に通わさせてくれるけど、効果があるとは思えない。
加藤くんと仲良くなりたいけど、「カ」は苦手な音だ。
いじめっ子が怒ってどもらせるためにちょっかいをかけてくるけど、全部無視。
今こう言ったら、みんな爆笑するだろうなあ。でも言えない。
言葉に詰まっていると相手が「コーヒーですね」と察してくれるけど、本当は「紅茶」と言いたかった。
全部覚えがある。きよしは私と同じだ。
そんなきよしが、吃音を抱えたまま大きくなっていくのを、自分のことのように喜べた。
大げさだけど、物語を味わう喜びをやっと知れた、という気持ちになった。
それだけです。
きよしこの夜