私がまだ大学生の頃の話。
鏡の前で髪型を直しながら、若い女の子二人がペチャクチャしゃべってる。
個室は2つ。
1つは空いていて、1つは閉まってる。
この個室の中に、出張帰りのビジネスマンが1人閉じ込められている。
息をひそめて、冷や汗をかいてるはず。
少し前にさかのぼる。
地方のまあまあ大きな駅。
改札を抜けた私の前を、出張帰りらしいスーツの男性2人組が歩いている。ホームにあがる直前に、1人が「ちょっとトイレ」って同僚を待たせてトイレにむかう。ちょうどもよおしていた私も、あとを追うようにトイレへ。
細い通路をすすむと、スーツの男性は、そのまま早足で女性用のマークがついたトイレの方に入ってしまった。
慌てて飛び出してくるかな?って私も続いてトイレに入ると手洗い場は空っぽで、個室が1つ閉まってる。
あ!気付かず個室まで入ってる!どうみても痴漢じゃなかったし、どうしたら?と思ったらところに、タイミング悪く若い女の子2人組が入ってきて、鏡の前で髪型を直しはじめたのである。
Sくんがどーしたの、Aちゃんは思わせぶりだのと鏡の前の2人の話は続く。個室が2つしかない小さいトイレ。さすがに個室のスーツも、女の子たちの声で間違いに気付いたはず。きっと中で冷や汗をかいている。一歩間違えれば逮捕である。なぜか一緒に焦る私。スーツをサポートしたいが、どうしたらいいのか全く思いつかない。
とりあえず、2人が去ったら、個室をノックして声かけてあげるのがいいのか?と考えながら、静かにリップを塗っていると、女の子たちがアレコレと話を続けながらトイレを出ていった。
よし、今だ!待ってろスーツ!
私が鏡の前でバッとふりかえると同時に、スパンっと開く個室のドア。トイレ内に誰もいなくなったと勘違いしたスーツがチャンスだ!とばかりに飛び出してきたのだ。
バッチリ合う目線!目も鼻も口もまんまるにあけて、ヒュッ!と変な息を吐いたスーツ。そのまますごい早さで女性用トイレを飛び出していった。
(痴漢じゃないの知ってます!)と叫んであげたかったが、トイレを出たらもうスーツはいなかった。スーツの同僚らしい男性が、飛び出してきたスーツを追ってなのかな?ホームへむかう階段を慌てて登っていくのが見えた。
向かって右折が男子トイレ、 左折が女子トイレというのすら 逆にする360度から入れるトイレとか増えたからな。そりゃまちがえる。
そのときは、通路左側にしかトイレなくて、手前が男性で奥が女性になってた。