非科学的なので散らしてたけど、年々忘れていくのももったいない気がしてきたので書き残す
あんまり真面目に話聞かなかったから詳細不明だけど、枕元で女の幽霊が泣くらしい。間に合わなかった患者さん説とか仕事中に亡くなったスタッフ説とかあって、先輩方の話を総合すると、かれこれ10年以上噂があるみたいだった。
宿直室は恒常的に数が足りてなかった。でも皆忙しくて眠れる方がまれだったので問題にならなかった。当時はまだ2日で40時間労働とか当たり前だったんよね。今は違うと思う。
下っ端私も30分だけ仮眠もらえたんだけど、下っ端が寝れるほど暇なわけだから、当然宿直室は満員だった。ソファも。ぐずぐずしていると30分終わってしまう。前日もたいして寝てなかった私は相当眠かった。床か幽霊部屋かの二択を迫られ、私は幽霊部屋で寝ることにした。
うとうとし始めた頃、果たして枕元に誰か黒いのが立った。で、べそべそ泣き始めた。しかも割とでかい声で。
めっちゃ腹立った。
や、泣くからには何か辛いんだとは思うけど。
生きた患者さんは並んで順番待ちしてるんですよ。喘息で息苦しくても胃腸炎で呻いてても、トリアージに従って粛々と検査&治療を受けるわけ。例外なく。だってのにお前は何だ?ここは救急でお前のトリアージは黒だ。死人だろうがルールはルール。並ばんといつまでも誰も診ねえわ。10年泣く体力があるなら受付通って待合に座れ。つーかうるせえんじゃ私あと20分くらいしか寝れんのに!!
私は寝たまま叫んだ。
「受付は一階ですよ!!!!」
幽霊は黙った。
私は寝た。
30分後、起きてから一応夜間外来の受付に寄った。病棟や一般外来の明かりが皆消えてる深夜も、ここだけはいつでも煌々とLEDが輝いてた。
て聞いたら、受付スタッフさんは心底ドン引きした顔で私を見て「誰も」と言った。
まあ寝ぼけてたんだろう、それか別の部屋で泣いてた人の声かも、と思ってそのまま私は持ち場に戻った。