それほどひどい事故でもなかったし、ひどいけが人がいたわけでもなかったから。
当事者同士で通報もできそうだし、救助も必要なさそうだから早々にその場をあとにした。
ただ、その後、ずっと心に引っかかっていたことがあった。
目撃したのは追突事故だった。
歩道を歩いていると、隣で急に車が止まった。
急ブレーキをかけたかのような、キュッ!という高い音が響いた。
驚いてその瞬間に顔を横に向けると、ハンドルから両手を離し驚いた様子の運転手と、同じく何事かと運転手の顔を覗き込む助手席の人が見えた。
その直後に、ブレーキが間に合わなかった車が後ろから突っ込んだ。
あー、やってしまったな、程度で歩みを緩めることなくその場を去ってしまった。
だが、あとになって運転手と助手席の人がどうしてあれほどまで急に止まったことを驚いているのだろうと不思議になった。
思い返してみて、急に止まった車の10Mほど先に、右折をしようと止まっているタクシーがあったことを思い出した。
その時は特に気にならなかったのだが、もしかしたらそのタクシーが原因なんじゃないかという気がしてきた。
タクシーと急に止まった車の間には、十分な車間があった。
10~15Mといったところだ。
視界に入ってきた事故を起こした車は特にスピードを出していた様子はなく、そのままブレーキを踏めば十分に止まれるだろう距離だった。
しかし、その車は突然止まった。
そして、止まったことをまるで不本意だというような様子で、中にいる人達が驚いていた。
自動ブレーキシステムが搭載されていたかどうかもわからないが、誤作動だと考えるのが一番納得ができる様子だった。
もし自動ブレーキが原因だった場合、事故の過失はどのように変わってくるのだろうか。
今のままでは後ろの車が追突をした感じになってしまっているが、もともとそんなところでブレーキを踏むような場所ではない。
かといって運転手の意思と反して車が止まったのだとしたら、その責任を運転手が負うというのもおかしな気がする。
こういう場合は警察に目撃者として申し出たほうがよいのだろうか。