2018-09-30

出待ちフィクションSS

初めて出待ちをした。

本当はするつもりなんてなかったけれど、友達の付き添いをしている途中で手紙を出し忘れたことに気付いた。

「あ、出し忘れた」

「え、じゃあついでに渡したら?」

そんな軽いノリだ。

出待ちってそんなに軽いノリでやっていいのか、という疑問も浮かんだけれど、気付いたら一時間以上待っていた。

「え、出てくるの遅くない?」

「別の出口から帰ったかなあ」

「没った可能性も否めないよね……」

友達推しは何故かさっさと帰路についたのであっけなく終わったのだが、私の推しはいつまで経っても出てこない。

こんなに遅くまで出てこないなんてことはあるのだろうか、と思いつつも、他のキャストの町厨もまだ帰らないのを見てこれだけ遅いのは普通なのだろうか、とぼんやりと考える。

推し推し始めてそこそこの年月が経ったが、うっかり同じ時間帯に帰ってしまうことはあれど凸ったことはなかった。

接触イベントもそうある俳優ではなく、でも苦労の甲斐あって出待ちせずとも顔も名前認知されていて、そんな中今さら出待ちをする意味とは。

ぐるぐると渦巻く思考をそのまま友達に垂れ流していると、奥から見覚えのあるシルエット。

推しだ」

それまでの間に散々あれ俳優かなあ、いや全然違うわ、なんてやり取りをしていたのに、推しは遠くからのシルエットだけで分かった。

伊達にそれなりの期間推してないな、と思った。

「頑張れ!」

友達背中を押されながら手紙を持ち推しに駆け寄ると、彼はマスクを外し、そしてあっ、という顔をした。

舞台上で私を見つけた時にする反応と全く同じだった。

正直何を話したかなんて覚えてない。

ただその時着ていた服がたまたま私がプレゼントであげた服で、私のあげた服ですね、と言ったらはにかみながらありがとうと言っていたことは覚えている。

なんてタイミングなんだ、と思った。

明日の公演も頑張ってください」

ありがとう、気を付けて帰ってください」

夜の街に消えていく推し見送り、私は崩れ落ちた。

お疲れ様、どうだった」

「なんで、なんで優しくしてくれるんだろう」

彼はとても優しかった。

出待ちになんて優しくするもんじゃないだろう、なのに優しくて、どうしたものかと思ってしまう。

優しくなければもう少し諦めがつくのに。

後悔する気持ちと同時に、また同じことを私はやってしまうのだろうかと怖い気持ちが私の腹の中でぐちゃぐちゃになって、胃を痛めつける。

お腹痛い……」

そう言うと、友達は笑いながらオタクってすぐにお腹痛くなるよねと言った。

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