日曜日、文化祭の準備で朝から学校に来てみたら、校庭にクジラが流れ着いていた。
キャーキャーと声が上がっているのは知ってたけど、僕はそれを無視して4階の図書室に行ってしまったから。
そんなわけで図書室の窓からクジラを見下ろしたときも、僕にはグラウンドに横たわる巨大な茄子のようにしか見えなかった。
このコロニーの液体層の深度はレベル2。まさに平均的な擬似海面を保っていると言える。
ただ昨今の猛暑に伴う資源の確保と安定性は急務となった。それで、コロニーを群体として有機的に相互接続を繰り返した。結果、その中に大海の生命体をコロニー化してたどこかの研究機関のものがたまたま混ざり込んでいたらしい。研究規格のコロニーを使えばいいものを、わざわざ一般規格り混ぜていたのだからタチが悪い。
ともかく、一般規格扱いということで、このクジラが乗ったコロニーは学園区画に無理矢理に接続されてしまったというわけである。
クジラにとっては案外快適だったのではないか。きっとこのクジラは、一時的にでも疑似的な海に収まることをよしとせず、無重力空間という非日常を最大限に享受しようとしたに違いない。
空気クジラ、浮かぶクジラ、わたしたちがフィクションの世界で会うクジラたちに彼はなろうとしたのだ。あるいは、飼育されているうちに、そんな知識を得ていたのかもしれない。
彼はまたどうなるんだろう。まだ生きているのだろうか。生きているなら、再び空が海に帰れるのか、このまま文化祭のオブジェになるのか。