私は鼻が良い方で、元々柔軟剤を使う習慣もないので、あの強い香料の匂いを嗅ぐとうっとなってしまう。特に『レノア本格消臭スポーツ フレッシュシトラスブルーの香り』っていう、マツコがCMに出ていた青いやつは一段と匂いがキツい。汗の匂いを消すのが目的にしても、いくらなんでも香料キツすぎじゃないかと思う。8×4の匂いが充満した更衣室を思い出して、最初嗅いだ時は少し顔をしかめてしまった。
何故使ってもいない柔軟剤についてここまで反応するのかといえば、身近にいた人が使っていたからだ。地味な見た目をしているくせに、隣にいるとキツめの香料の匂いがするギャップが印象的な人だった。
匂いは記憶に結びつくという。いわゆるプルースト効果。なるほど確かに、青いレノアの匂いを嗅ぐとその人のことを思い出す。匂いが記憶の引き出しの鍵になっているかのように、ひとりでに仕舞っていたものが溢れ出してくる。
少し高めの穏やかで優しい声をしていて、その声を聞くと安心したこと。
大人しそうな性格なのに、鼻の長い真っ黒な車に乗っていて心底驚いたこと。
お酒が大好きで、よく飲むわりに大して強くなくて、いつも飲みすぎて潰れていたこと。
歌がうまかったこと。
ごくありふれた柔軟剤の匂い一つで、生々しい記憶がいくつも蘇るのだ。まるでフラッシュバックのように。本当に厄介で仕方ない。
あまりにも波長があって、一緒にいて一番息がしやすかったこと。
私の見た目や性格のコンプレックスを、明日の天気を語るような気軽さで片っ端から肯定されて、気にしているのが馬鹿らしくなったこと。
酒の勢いで吐き出した、私の腹の底で何年も淀んでいた気持ちに、一番欲しい言葉をくれたこと。その一言で心底救われたこと。
抱きしめられた時、あまり得意ではないはずの匂いに酷く安心したこと。
気がついたらレノアの匂いだけすぐに判別できるようになっていて、思わず笑ってしまった。その上その匂いがあまり嫌いではなくなっているのだから、我ながら単純だ。
青いレノアが廃盤になるまで、この先も私はしょっちゅう彼のことを思い出すのだろう。勘弁してくれと思うけれど、廃盤になるのはもう少し先でもいいかな、と思う自分もいる。
男ならそういうときその匂いでオナニーできるのに すけべ心のない女は損しているなー
主語がデカすぎる