もうだいぶ前だったんだけどさ、野球であるチームが好きだったんよ。
最初にそこのチームのホームに行ったの、20年近く前になるんだね。年取ったもんだ。
頻繁には行けなかった。お金もないし、ちょっと距離あるし。年に数回位。
熱心な人から見れば、全然好きなチームに対する行動じゃないんだろうけど。
でも、球場の雰囲気が大好きだった。吹いている風を感じるのが好きだった。
駅から球場までに歩いている間に感じる風も雰囲気も大好きだった。
チームもいろいろあったけど、本当に好きだった。
優勝した。嬉しかった。でも、好きな選手たちがが引退やトレードでいなくなった。いろんな騒ぎもあった。
いろいろあったけど、まだ好きだった。球場の雰囲気も変わっていったけど、やっぱり吹いてる風を感じるのは好きだった。
体調を崩して数年間、あの球場には行けなかった。
無理がたたったのもあるけど、近所トラブルで精神的に参ってしまったのも大きかった。
近所とね、こじれてからがすごかった。
何かあるとすぐ苦情。手紙。
顔を合わせると罵られる。
ってさ。
そんなに在○がにくいなら、どうしてその会社に勤めてるの?
創業者一族にでも言えばいいじゃん。
音がうるさいと言われたら、赤ん坊の泣き声が漏れないように窓を閉め切ったり、自動車の音がうるさいというから自転車通勤にして。
いるのに気付かなかったのも注意されたし、家の十数メートル前で立ち止まって忘れ物探していたのも注意された。だから、細心の注意を払って外出するようにして。
自分が悪いんだ。自分のせいで家族に迷惑かけてる。自分が悪いんだ。
お詫びにも行った。
何度行っても出なくて、出てきたと思ったら、野球の試合中はインターホン切るの当たり前だろって。
そんなのわからないよ。でも、そんなの言えないから頭を下げた。
頭を下げる際に目に入るタペストリーもクツも縦じまだった。
そのうち試合結果も見なくなった。
社名みて苦しくなるのもあるけど、
あのチームが勝つとさ、次にかち合った時にそれはもう満面の笑みでこっちを罵るんだ。
あんなに好きだった野球を何年も見なかった。お菓子も食べられなくなった。家も手放した。お金も無くなった。
残ったのは、ローンと家族の心の傷。
去年、ひさしぶりにあの球場のある駅で降りた。
子供の行きたいイベントは球場の近く。あの球場に行く道をひさしぶりに歩いた。
もう何も感じなかった。
そして、はっきりわかった。
もう球場に行くことはないんだなと。