「そう、それで、男は出てくるのかい?」
君の答えを聞いた途端、僕は二十億光年の彼方に飛ばされる。
………
男が主人公の百合作品、というものを、僕はいくつか知っている。
『僕は友達が少ない』、『マクロスF』、『ロウきゅーぶ!』、『聖剣使いの禁呪詠唱』etc etc...
君がこれらを、百合だと認めないことも知っている。
けれど。
百合、と冠されたレーベル以外の作品を差し出すとき、僕は口ごもらざるを得ない。
「この漫画の1巻は全1023コマ、男が登場するのは74コマ。パーセンテージにして7.1%……」
君だってそんな答えを求めちゃいないだろう。
………
僕は、馬鹿だから、二十億光年の向こうから君に、弱々しく主張する。
「『神無月の巫女』は?」
「百合カップルが男に打ち勝つ唯一の百合作品。あそこまで強固な絆を持った百合はもうどこにもない。『わかばガール』『のんのんびより』『それが声優』……女どうしの恋愛がない作品に百合と呼ばれる資格はないというのに」
「『響け!ユーフォニアム』は?」
「久美子と麗奈の間の引力は、男との恋愛と違って永続するものだとスタッフが明言している!」
………
君はため息をつく。
「たとえば、『ARIA』。アリシアさんの結婚。未だに胸が痛む、手酷い裏切りだ」
僕は分からない。二十億光年の向こうで、僕は、ただ、灯里とアリシアとみんなとのすてきな時間を思い返す。アリシアが結婚したことで、その輝きは消えてしまったのか?
………
「本編が百合とかけ離れている作品の外伝にどう期待すればいい?」
「百合がはじまったとしても、最後まで百合で終わる作品のほうがめずらしい」
「ハーレムもののレズキャラはだいたいがツンデレの亜種であって、男嫌いからの逆転・主人公の特別さを描くだけのもの」
僕に反論する言葉はない。僕は、ただ、ここから一瞬の輝きを見上げる。男を好きになってしまった哀れな女が、百合キャラでなくなる様を。輝きを失うさまを。かつてそこにあった輝きはまだ僕の脳裏に残っているけれど。
けれど僕の喉はもうふさがれている。
君には届かない。
何も。