キッチンから悲鳴が聞こえて、何事かと思って駆けつけると、ゴキブリだった。
遂に現れたか。下の階がスーパーだから、いつか来るんじゃないかと思っていた。大丈夫。ご安心なさい、マダム。俺はあらかじめ買っておいたスプレー取り出して、なんなく一撃殺虫した。
ビビる妻に男としての度胸を見せつけられて、すごい得意げな俺(器小っさ…)。
妻は呆然としていたが、やがて言った。「消毒しなくちゃ」。
早速、近所のドラッグストアで消毒用エタノールを大量に買い込んできた。そしてそこら中に撒く妻。唖然とする夫( ゚д゚;)。
ゴキブリごときで、キッチン中をアルコール消毒!!?? いやー、いくらなんでもそれは… やり過ぎではないですか( ゚д゚;)?
「アレが這っていたかもしれないでしょ? そんな食器で食事できるわけないじゃない。少しは想像力働かせたら?」
妻は結婚前、年収600万。しかも良家のお嬢様だ。聞くとキッチンでGと遭遇したのは初めてらしい。
子どもは幼少期にキスされたり、親の歯ブラシを突っ込まれたりしなければ、一生虫歯に悩まされることはない、と聞く。だから、妻はバイ菌に敏感になりつつある。その気持ちはわかる。
だが、俺は学生時代から普通の人間だったんだ。私服にアイロンを掛けるのを怠っていたし、たまに髪を洗わないこともあった。
でも、彼女の髪にはホコリ一つ付いていなかった。その違いを埋めようと、俺はずっと努力してきた。四六時中それを考えていた。溝は埋まりつつある。そう信じていた。これでいい。努力を続けれていればいい。十分うまくやっている。何も間違ってない。
怖い。
趣味が違うのはお互いを尊重すればいい。性格が違うのは理解すればいい。でも文化が違うのは? 感覚が違うのは? バスタオルは每日洗いなさいだって? 夫婦でバスタオルを共有するなんてもってのほか? ハンバーグを食べるときにナイフを添える? グラスには必ずコースターを添えなさい? 「シチューライス? は? ありえない... 」
いつか。いつか、致命的な違いを発見してしまって、この恋心が「冷め」てしまったら。
怯えながら生きてる。
相手に文化の違いを気づかせてないなら自分が一生合わせるしかないわな