2014-01-17

親父が死んだ

親父が死んだ。大腸癌だった。

平均寿命よりはちょっと足りない62歳だった。

大腸癌なんて誰でもなる病気だ、今どき珍しくもないが、

発見が遅く、転移していたので助からなかった。

自覚症状がなかったわけはない。

それでも病院にいかなかったのは静かな自殺を行いたかたからだろう。

親父は俺が物心ついた頃から言っていた。

「身の程を知れ」「夢を見るな、現実を見ろ」と。

父はフリーランス建築家だったが、

皮肉家の性格と人に頭を下げられない無駄プライドが災いし、

バブル以降仕事には恵まれなかった。

毎日から酒を飲んでは寝るだけの姿しかみなかったが、

口だけは一人前、とても尊敬できる父親ではなかった。

俺は今、小さいながらも会社経営者になっている。

年商15億程、自慢したいわけではないが誇りは持っている。

東北震災の時俺は実家にもどっていて、

寄付段取りを整え社員を連れて物資をもってボランティアに行く用意をしていた。

親父は偽善だと叫んで烈火の如く怒りをぶちまけていたが、

怒りの原因はよく分からなかった。

だが、今になって親父の気持ちが分かってきた。

うちの母親くらいしか話し相手がいなかった親父は単純に俺にかまって欲しかったのかもしれない。

俺に尊敬され、今の俺があるのは親父のお陰だと面と向かって言って欲しかったのかと思う。

俺の会社が成長すればする程、

社員に慕われている姿を見れば見るほど、

劣等感を感じ、

俺がメディアにでも出ようものなら嫉妬の塊になって

その内足元をすくわれる、ちやほやされるのは今だけなどというしかなかったのだろう。

おそらく親父を殺したのは俺だろう。

俺への嫉妬が親父を自殺に追い込んだ。

30代半ばから家にこもりきりで、

酒に溺れた親父の人生とは何だったのだろうと考えると、

自分であれば耐えられない。

無間地獄のような毎日を30年近く続けた親父は本当に気の毒だ。

サラリーマンのままでいればもう少しマシな人生であったろう。

身の程を知れ、夢を見るなという言葉はきっと過去自分に向けていいたかったことばなのだろう。

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