親父が死んだ。大腸癌だった。
自覚症状がなかったわけはない。
それでも病院にいかなかったのは静かな自殺を行いたかったからだろう。
「身の程を知れ」「夢を見るな、現実を見ろ」と。
口だけは一人前、とても尊敬できる父親ではなかった。
年商15億程、自慢したいわけではないが誇りは持っている。
寄付の段取りを整え社員を連れて物資をもってボランティアに行く用意をしていた。
怒りの原因はよく分からなかった。
だが、今になって親父の気持ちが分かってきた。
うちの母親くらいしか話し相手がいなかった親父は単純に俺にかまって欲しかったのかもしれない。
俺に尊敬され、今の俺があるのは親父のお陰だと面と向かって言って欲しかったのかと思う。
俺の会社が成長すればする程、
社員に慕われている姿を見れば見るほど、
劣等感を感じ、
その内足元をすくわれる、ちやほやされるのは今だけなどというしかなかったのだろう。
おそらく親父を殺したのは俺だろう。
30代半ばから家にこもりきりで、
酒に溺れた親父の人生とは何だったのだろうと考えると、
自分であれば耐えられない。
つまらない、失格。