28歳。
付き合いの長い友人も多い。年に2・3回ある小規模同窓会には、毎回顔を出す。年末は、学部時代の友人たちと温泉旅行に行くことになっている。
学歴にしても容姿にしても、コンプレックスの類とは無縁。経済的にも困ってない。
家族も息災。きょうだい達も立派に自立している。弟は今年結婚した。
たぶん10年後ぐらいの光景なんだろう。俺は清潔な新築マンションを借りて、お気に入りの家具に家電、服や小物に囲まれて生活してる。
今欲しいと思っているモノは、その頃には大体みんな手に入っている。どれも小金があれば手に入る程度のモノばかりだから、まあそりゃそうだろう。
仕事も順調。自分がやりたいと思うことだけを仕事にして暮らしていける、とても幸せな身分にある。
周囲の人々には尊敬され、愛され、精神的にも満たされている。俺の勝手な勘違いでないなら、この辺は現在とそれほど変わらない。
ただ、未来絵図の中の俺は未だ独身で、恋人の姿はそこにはない。結婚してないんだから、もちろん子どもなんているはずがない。
周囲の人々には愛されているはずなんだけれども、そこに現在の友人達の顔はない。というか、周囲の人々には、具体的な顔がない。
家族ともうまくやってるはずなんだけれども、具体的な彼らの存在は、影も形もない。まるで初めからいなかったみたいに。
誰が見ても分かる。この幸福は、どこかが間違いなくフィクションで、ごまかしで、不整合だ。
10年後の自分はどうだったら幸せなのか。何があれば満たされるのか。
俺にはさっぱり分からない。