たったさっきの話だけど、家の近くの歩道を歩いてたら前の方で警察官が立ち話をしてるのが目に入った。
話し相手のおばちゃんが犬を連れていて、かわいいなーとか思いながら段々近づいていった。
チリンチリーンっていうやつ。要するに「道あけろ」っていうことだ。
反射的に避けそうになって、でも今目の前に警察官がいるのを思い出した。
それで、いつもこういう状況で考えてはいたけれど、まだ試したことのないプランを実行に移すことにした。
この間1秒ぐらい。
その場で振り返ると、自転車のベルを鳴らしたのは60ぐらいの女性。
不機嫌そうな顔だった。
こっちが避ける気がないのを見てとったその人は、減速しつつ避けようとした。
ちょっと待って、というジェスチャーで自転車の進行方向に立って、自転車を止めた。
止まり切る前に「危ないでしょ!」とその女性が叫んだ段階で、ちょっと安心した。
「あぁ、この人は本当にダメな人だ」
その声が終わるぐらいには自転車は止まっていて、それでも足を付いて横をすり抜けようとする自転車のかごをつかんで、後ろにいる警察官に声をかけた。
振り返ったら、憤激と困惑が混ざった顔をしてた。
「しまった」でも「そうだった」でもなく、「こいつ何よ」「私が何したっていうのよ」っていう顔。
親が死にそうで病院へ向かってる、とかならこっちが謝って解放するけどね。
面倒くさそうな顔の警察官と、ぶすっとした60代女性と、見物人数名の前で状況を説明した。
「ここは歩道なのに自転車で走ってきて、ベルを鳴らした上に『危ないでしょ』と恫喝までした」って。
「車が走ってる道なんか危ないでしょ」とか
「ちょっと道あけてくれればいいのよ」みたいな
「歩道は押して歩こうね」って。
実はその段階で、道交法で自転車が歩道を走っちゃいけなくて、緊急時以外ベルを鳴らしちゃいけないのは知ってたけど、罰則規定とかまではさすがに知らなかった。
でもちょっとカマかけて、一言こういった
「じゃあ交番で住所とか名前とか聞きましょうよ、おまわりさん」
警察官は苦笑してた。
だって彼が談笑してる目の前を自転車は何台も通ってたわけだしね。
面倒だな、そこまでしなくても、って思ってたはず。
でも女性にはちょっと効いた。
「あんたは何が言いたいの」って、初めてごねるんじゃなくて早くこの場をのがれる方法を聞いてきた。
このころには見物人も7,8人はいたしね。
これ何させるのがいいんだろ、と思ってたら警察官が出てきた。
「まぁおばあちゃん、とりあえず謝ったら、きっと許してくれるよ」って。
まぁ落とし所はそんなとこかなと思ったけど、女性の反応が思ったより大きかった。
「私が謝るわけ?!」
すげーなと思ったね。だってこの状況で、自分が悪くないと思ってたみたいなんだもん。
でもさすがにここまで来ると逃げられないのが分かったのか
「謝ればいいんでしょ」とつぶやいたあとに、もっと小さい声で
衆人環視で謝罪。
若い男に謝罪。
相当に屈辱的だったんだろうなぁ。
「もうしないでくださいね」
って言って後を警察官に任せてその場を離れた。
もうちょっとまじまじとどんな顔してたのか見ればよかったかな。
で、ここからは推測だけど、あの女性は多分人に謝ったり自分の非を認めたりしてこなかったんだと思う。
社会との接点が少なかったのかなとも思った。
そしてこっちは確信。
あの女性は警察官がいなかったら捨て台詞を吐いて逃走してたはず。
そして、今回のことだって反省なんかしてなくて、似たような仲間相手に
「こないだこんな失礼な奴がいてさ、警察も話がわからないのよ」
みたいな会話してるはず。
「それはひどいわね、災難だったわね」
なんて返ってきたりしてね。
でもそれでもいいんだ。
今度若者相手にベルを鳴らす時、あの人は絶対警察がいないか周りを見るはず。
それだけで十分だ。
それでもしかしたら歩道を走ったり、ベルを鳴らしたりしないかもしれないから。
言って分からない人を殴るのはあんまり賛成できないけど、ルールを正しく適用するぐらいはもう少しやってもいいんじゃないかと思った。