2020-12-14

[] #90-3「惚れ腫れひれほろ」

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ドッペルが俺の兄貴好意を持っているのは、仲間はみんな知っている。

だけど、その好意がどんな色をしていて、どんな形をしているかボンヤリとしていた。

たぶんドッペル自身もよく分かっていないんだと思う。

俺たちはガキだから自分気持ちすら上手く捉えきれない。

そんな状態で無理に型にはめようとすれば歪なものになってしまう。

四角いスイカってあるだろ?

あれって容器に入れて、その中で成長させて作ってるんだ。

大人の発想としては、かなり強引だよな。

そんなことまでした挙句、あれって食用じゃないんだってさ。

あの形にするために手間隙かけて“団子より花”を作ってるんだ。

まあ花の方がいいって奴もいるんだろうけどさ、ドッペルの気持ちは観賞用じゃないだろ。

そして他人が食い荒らすものでもない。

それはタオナケだって分かっているはずなんだけど、この時のあいつは冷静じゃなかった。

「ねえ、ねえ、ドッペル。ロマンス育んでる~?」

「ろ、ロマンス……?」

「そうよ、ロマンスは死なないの! 初恋ゾンビとなるのよ!」

意味不明なことを口走るタオナケに、内気なドッペルは戸惑うしかない。

恋は盲目なんていうけれど、第三者立場でもそうなるんだな。

今のタオナケには、ドッペルの困った顔が見えていないようだ。

「何もないのなら何かしなきゃだめよ。失敗を怖がってはダメ。失敗しない人間は何もしない人間だけなんだから

なんだか自己啓発セミナーじみたことを言っているが、たぶん漫画受け売りだろう。

タオナケは善意でやってるんだろうけど、あれほど“余計なお世話”といえる状況も珍しい。

時代が違えば、地元お見合い斡旋する「お節介おばさん」として活躍たかもな。

「うーん、そろそろ止めるべきか」

俺は二人の間に割って入ろうとする。

このまま続けさせるとドッペルが可哀想だ。

タオナケも頭が冷えれば、自分の図々しさに気づくだろう。

「マスダ、ちょっと待って」

しかし仲間のミミセンが俺を止めてきた。

「今のタオナケは恋愛模様に飢えている。いま止めてしまうと、かえって悪化させるかもしれない」

そう言われてみると確かにそうかもしれない

最近、知り合いにタバコをやめたがってる人がいたんだけど、その人はすっぱりやめるわけじゃなくて吸う量を少しずつ減らすようにしているらしい。

無理やり我慢すると禁断症状が出て、かえって日常生活に支障が出るからだ。

まあ結局その人は今でも喫煙者のままだけど、やってること自体は筋が通ってる。

まり今のタオナケも、恋愛模様から遠ざけると危険ということだ。

ましてやタオナケは超能力者だ。

恋愛脳の状態で機嫌を損ねれば、いつ念動力が暴発してもおかしくない。

俺の一張羅も、それでズタズタになったことがある。

あの時は泣いたなあ。

ドッペルには(それと兄貴には)気の毒だけど、タオナケが落ち着くまで話を合わせてもらおう。

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