2016-04-17

さっきはてなアカウントを取ってきた。

ここはたまに見てたけど、自分で何か書こうと思ったのは初めてだ。

昔の思い出ふたつを自分のためだけにここに書き捨てる。


高校生の頃、ある日学校から帰ってすぐ犬の散歩に出かけた。

から二、三歩歩いたところで、行く手に人が立っているのに気づいた。

黒っぽい格好をした眼鏡おっさんだった。満面の笑みを浮かべていた。

おっさんズボンのファスナーから褐色の長い物が出ていて、扇風機のようにぶんぶん上下左右へ躍動し、旋回していた。

それが何だったのかは今でもはっきりとはわからないが、冷静に考えるとたぶんおっさん性器だったんだろう。

そのおっさんに目がひっかかって、脳が理解した時、一瞬で目の奥、肩、全身から温度が抜けていった。

普段自分の体を取り巻いている自分の分の空気が一気に冷えて、薄っぺらい膜に凝縮されて、自分の体全面へと頼りなくぴっちり張り付いた。

そのおっさんから発されている空気が、その薄皮一枚だけを隔てて自分を圧し潰してくるようだった。

喉が鈍痛で詰まった。

その圧迫だけをただただ感じさせられながら、目をおっさんからもぎ離して、連れていた犬の方へと動かした。

犬は普段通りに体をゆらして呼吸をしていた。

反射的に口が動いて、犬に「行くよ」と声をかけて、そうしたら足も動かすことができた。

私はおっさんから努めて目を逸らし、犬の背中の毛並みと、動く肩甲骨を見ながら、笑顔おっさんの脇を通り抜けて、普段通り散歩コースの道へと歩き出した。

他のことを考えるような余裕はなかった。

おっさんはそこにたたずんだまま、追いかけては来なかった。

振り向いて確認はしていないから本当のことはわからない。でも動く気配はなかった。

そのまま普段より念入りに、時間をかけて散歩をした。

散歩コースを何周かしてからゆっくり家の近くに戻って、何度もおっさんがいないことを確認してから、家に入った。

家族に話すことも、誰かに通報することも考えなかった。そういう発想がなかった。

今でもそうしようとは微塵も思わない。しないことは自分のために正しい判断だったと思っている。

社会的には正しいわけはない。おっさんに何がしか制裁を与えるチャンスも失った。

でもそれ以上自分の何か、自分構成する何かの一欠片でも、あれのために損ないたくなかった。


友達には一度この話をしたことがある。

女子グループのおしゃべりで、他の子痴漢にあった話をするのを聞いて、私もこの話を笑い話風味にして吐き出した。

でも未だにこの思い出が、腹の中を時々渦巻くことがある。

あのおっさん生殺与奪を握られたと思った瞬間を、この先も私の脳は多分しつこく覚えてい続けるんだろう。

その暗い予感が本当にいやだ。

私のこの恨みはどこへ持っていけば捨てられるんだろうか。


ここまででもう体力を使い果たしたから、もう一個の思い出は最低限吐き出したいことだけ書く。

同じく高校生の時、こっちは夏休みの登校日で、昼過ぎだった。

帰る途中で知らないおっさんに声をかけられた。

「ねえ今サボり?暇?俺とカラオケ行かない?」

瞬時に上述の思い出が頭をよぎって恐慌状態に陥ったが、ともかくしどろもどろにでも断った。

するとそのおっさんはこうのたまった。

「お前なんかね、高校生じゃなくなったら誰にも相手にされなくなるよ」

こっちは今なら言える。ふざけんな馬鹿野郎大嘘つき。ブーメラン野郎。何とでも思い浮かぶ。

こっちの恨みはもうそろそろ痛くなくなりそうな気がする。

いつしかこれらの思い出は、ネット上で嫌でも目に入る熾烈な女叩きと化学反応して、よくわからないことになった。

普通に友達とも話せるし男の人と恋愛もする、ネットで男叩きもしない。

でも男の人から少しでも一方的性的好意を向けられたと感じると、それが例えどんなに仲の良い男友達であっても気持ち悪くて即縁を切りたくなる。

男の人とハイタッチとかした後、反射的に手を拭ってしまうくせも、とても失礼なこととはわかっていても直すことができない。

ネットの女叩きをたまに回避しそこねて、品性下劣文章が目に入ってくると憎悪燃えるスルーすることができない。

自分が苦しいだけの不毛憎悪だ。

今まで長いこと憎しみを抱え続けてきた。

うそろそろ楽になりたい。戦う気力はない。それはよくないことなのかもしれない。

でも今は、卑小な自分のためにとりあえず自分が楽になりたい。



書き終わって思った。

私は無言かつ匿名ぼんやりとした他者を求めてここに来た。

その私の暴力性を断罪せず見逃してくれますように。

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