2015-08-08

認知症診断をめぐるもやもや

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150805/k10010179491000.html

上記を読んでのもやもやを書き出しとく。

  

認知症」というのは基本的に症状名であって、病名ではない。「認知症がある」といったときにその原因となる病気存在していなければならない(アルツハイマー病とか脳卒中とか)。

なので「アルツハイマー病の薬」はあるが「認知症の薬」というもの存在しない。

日本認知症を診ているのは主にneurologist(神経内科医)と psychiatrist(精神科医)。ややこしいが神経科というのは本来 neurology の和訳としてつくられた言葉だが、実際には psychiatry とほぼ同じ意味を指している。

この記事に出てくる老年精神医学会というのはほぼ精神科医の集まり。これを出すのであれば神経内科医の集まりである日本経学会もださなきゃダメだろう。

  

で、認知症とは何かということだが、

「一度正常に発達した知能が何らかの原因で減退し、そのために社会生活に支障を来す状態」

ということだ。これをみればわかるが正常と異常の境というのはそんなに簡単ではない。誰が診ても正常という人と誰が診ても異常という人はいるが、その中間層は簡単に判断できるものではない。さらに言えば知能は減退しているが、社会生活には支障を来さないという状態(これは軽度認知機能障害と呼ばれる)もあってややこしくなる。

ちなみに社会生活に支障を来すというのは、一つは対処行動がとれるかどうかということ。具体的には「この人を知らん町に放り出しても、ちゃんと周りの状況を判断して家に戻ってこれるか」ということ。こんなん、家族か周りの人間に聞かないとわからんし、ちゃんと線引きできんだろ。一応、CDRとか生活状況を確認するための質問票はあるが、やたらと時間がかかったり、そもそも細かい生活状況を把握している人がいなかったり、ルーチンで全員に行うのは難しい。

  

次に行く。「正しい病名はせん妄だった」とあるが、「せん妄」というのは症状名なので、基本的には原因というものがある(ただし、原因がよくわからず「年のせい」とせざるをえないものもある)。酒を飲んでせん妄になることもあるし、そもそもアルツハイマー病もせん妄の基礎疾患になる。これを書いた記者が病名と症状名をごちゃごちゃにしているからわかりにくいのだ。あと「病名:せん妄」とする精神科医にもいいたいことはあるがやめとく。

  

次。アルツハイマー病の誤診例で実際はうつ病だったとあるが、そもそもうつ状態というのはアルツハイマー病の初期症状でもあるだろうが!(ちなみにアパシーといって周囲への無関心、やる気のなさもアルツハイマー病の初期症状としてある)

ある程度症状が進行して画像でもアルツハイマー病に典型的な所見が出てくればともかく、初期の状態でうつ症状のあるアルツハイマー病とうつ病を厳密に鑑別することはできねーよ!結局、最初の時点である程度決め打ちして治療経過をみながら診断を考え直すしかない。「後医は名医」という言葉がこれほどあてはまる分野もないだろう。

  

最後認知症専門医の堀智勝名誉院長って誰かと思えば、脳外科の医者じゃねーか!全く専門家じゃねーよ。この患者さんは、たぶんコリンエステラーゼ阻害剤の副作用がでてて、それをやめたらよくなったというのはそうなんだろう。ただ、本人(もしくは家族)が何かを訴えて最初病院にかかったんだろ?そちらは結局なんだったんだ?それこそ鬱だったんじゃねーの?単なる健忘症だったってこと?

東京女子医の名誉教授を引っ張ってくるのなら、岩田先生を引っ張ってくるべきだろう。この人の方がよっぽどガチ専門家やぞ。

  

そもそも誤診とか気軽に言ってくれるなよ。誤診というなら正しい診断とは何か?ということが問題になってくるだろ。

この辺は臨床診断と病理診断の違い(最終診断というのは亡くなった後に脳をあけてみるまでわからん!)や、薬の問題アルツハイマー病以外の認知症を来す疾患の話などいろいろあるが、しんどくなったので終了。

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