■「響け！ユーフォニアム」の拍手問題

失われた何か 「響け！ユーフォニアム」の組織論ー拍手をしない部員達の心理について

http://nextsociety.blog102.fc2.com/blog-entry-2428.html

これ読んで、もしかしたら俺には物語を理解する能力が欠けているのか

または偏向しているのだろうかと心配になった。

俺はいい加減おっさんなので、若い人たちとは感性が違うのかもしれんが。

まず、大方の部員達が拍手をしなかった理由についてこのブログでは

どちらにも与することができないという気持ちが、

部員達の中で支配していたからだろう。

としているが、これからして「えっ、そうなの？」と思った。

ブログの著者が書いているように、

部員達は、香織よりも麗奈のほうが上手い事を認識している。

だから、どちらに拍手を送るか問われたならば

（誠実な音楽家としては）麗奈に拍手するのが道理なのだ。

というか、内心ではほぼ全員が、麗奈に与しているのだ。

しかし実際には拍手はしなかった。

それを以て、「麗奈と部員との利害関係のはなし」とするのは

ちょっとどうかと思う。

麗奈と部員との関係は、麗奈の演奏の時に

「音楽に対する絶対的な忠誠」という点で、

確実に、強固なものになってしまったのだ。

だから、麗奈に拍手をしなかった理由は、麗奈と部員の間には、もうない。

香織と部員の間にだけある。

それは、香織を傷付けたくないから、かわいそうだから、

なんとかしてやりたいから、せめてそっとしておいてやりたいから、

決着を付けずに済む可能性を少しでも残しておいてやりたいから、

そういう、高校生らしい感情からのものだと思う。

逃げたのではない、むしろ積極的に、拍手をしないという選択をしたのだ。

ブログの著者は久美子と香織の起立に心を打たれたと書いているが、

むしろあのシーンは、逆説的に、部員の心情を視聴者に疑似体験させるために

あったのだと俺は思う。

だから、視線が部員達の位置からなのではないか。

画面に写らない部員達の「えっ、立つのかよ…」という気持ちを楽しむのが

あのシーンの楽しみ方だと思う。

意思表示をしないメリット、という考え方をするのであれば、

ではもう何人かが香織に拍手したとしたならば

大道に沿うように、大勢側へと、みんなこぞって拍手をし始めただろうか。

それは、「響け！ユーフォニアム」ではないんじゃないだろうか。

部員達は困っていたのだ。仮にも「音楽家」なのだから。

滝先生が香織に、ソロをやるかどうか問うた事も、

引導を渡したわけじゃない。

あの中で、香織だけが、全く公明正大に、

音楽に対して真摯でいることを、

何の計算も感じさせずに表明できるから、

滝先生は、彼女にお手本になってもらったのだ。

それも、彼女の株を下げないような、素晴らしい順序で。

部員達に、「音楽に嘘をつかないこと」は正しい事なのだと、

教えてやるために、滝先生はああいう方法を選んだ。

俺は、滝先生の行動は実に教育者らしいと思う。

そして、部員達も実に葛藤していると思う。

この作品は実に素晴らしい「群像劇」だ、と俺は思う。

Permalink | 記事への反応(2) | 13:25

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