といっても、いわゆる恋人関係ではなく、彼も私も独身ではあったものの不倫のような関係だった。
というか、彼は私を恋人ではなく、愛人のように扱っていた、のだと思う。今思えば。
彼は文章を書く人なのだけれど、私の書いた手紙の文面を見て、とても私をいとおしく思い、
たまたま彼は長く付き合っていた恋人と別れた後だったかなにかで、なんとか私に会いたいと思った、のだと言っていた。
私は当時(まあ今もだけど)非常に強い容姿コンプレックスがあって、会うのを先延ばししていた。
そのうちに彼が欧州某国へ半年間留学となり、その間もエアメールで何度も手紙が届いたりしていた。
帰国した後、彼と会った。そして、冒頭で書いたような関係になった。
デートといっても、食事をして、あとは彼のアパートで彼の好きなワーグナーを聞いたり、
文学だの野球だのについてのとりとめのない会話をして、それからセックスをし、
ベッドのなかでまたとりとめのない会話をして、それから送ってもらう、そんな感じ。
その関係はそんなには続かなかった。
彼の元の恋人は、恩師の友人の御嬢さんで、恩師は彼のいる世界では日本で一番の権威のような人。
その恩師から、元の恋人について、「そろそろなんとかしてあげたらどうだ」と言われたのだと。
「自分としてはとっくに別れたつもろだったのだけれど、そういわれたら断れない」と言った。
「自分は他人を愛せない人間で、君のこともとても大事に、たぶん彼女より大事に思ってはいるけれど愛していない。
もちろん彼女のことも愛することはないけれど、もし結婚して子供ができたら、子供を愛することはできると思う。
そして自分が今後もこの世界で生きていく以上、君は結婚の対象とはならない」
簡単にはあきらめられなかったけれど、結局は彼に従わざるをえなかった。
何年かして、時々彼の名前を新聞の書評らんでみかけるようになった。
そしてさらに数年して、彼の本は年間ベストセラー一位となり、テレビのバラエティでも何度か姿をみかけた。
その後ブームは去り、彼は今大学で教えながら、時々雑誌にコラムなどを書いているようだ。
彼の著書にあった新婚旅行の時期は、私に別れ話を切り出してからほぼ1年以内のことだったし、
たぶん彼の言葉は本当だったのだろう、と思う。というか、思っていた。
だけどここ最近のオタキング絡みの一連の、文化人が若い女の子を云々の話を読んでいて、
もうずっと昔のことだけれど。
追記: