2013-09-22

初恋の終わり

10年前、中学生だった僕はひとりの女の子に恋をした。それほど高くない僕の背丈よりもさらに低く、大きな瞳と笑うと大きくなる口角が魅力的な、あどけない女の子。それほど勉強熱心ではないようだったけれど、授業中、寝起きざまのぼんやりとした顔にカーテンで遮られていた日の光が当たるたび、白い肌が内側から光るように透き通っていて、とても綺麗だったことを思い出す。

高校に進学し、僕は進学校へ、彼女は公立の高校へ。交流は皆無となり、僕自身「高校からは新しい恋愛を始めよう」と思った。実際、3年の間、素敵だと思える女性に好意を抱いたりもした。けれど、あの頃の彼女面影をふと思い出しては、彼女に勝るほどのひとではない、と半ば諦めのような気持ちが残っていた。そうして、気がつくと僕は卒業していた。

高校2年生のとき、一度だけ彼女出会った。部活の帰り道、仲間と偶然寄った公園彼女はいた。当時とほとんど変わらない面影のまま、彼女と同じ制服を着た女の子と楽しそうに話す姿を見つけた。彼女について時折話していた高校からの友人に促され、話しかける。今となってはその言葉ひとつひとつはまるで思い出せないけれど。恐らくはまるでスマートさのかけらもない、不器用言葉だったろうと思う。けれど、相手に不快感を与えないよう、最低限配慮するような。

金属製の冷たいベンチの端に僕は腰掛けたけれど、彼女は斜め前に立ったまま僕と話した。ひとひとりぶんのスペースを隣に空けたまま、僕はやんわりと「今から起こることは僕の望むものとはならないだろう」と予想していた。予防線を張り巡らせ、必死自分が傷つかないよう注意を払っていたにも関わらず、交際中の彼氏の話に話題が及ぶと、耐えきれなくなった僕は、まあ、そうだよねという言葉と苦笑いを残してその場を逃げるように立ち去った。帰り道、MDプレイヤーから流れる失恋ソングは今までとまるで別物のように聞こえた。僕のことを歌っていたわけではないのに、気づけば歌詞の中の「僕」は僕で、「君」は彼女になっていた。

それからというもの地元を離れ地方大学に進学し、就職した今なお、特定の女性と深く付き合うことは無い。ラブソングを口ずさむたび、「君」は存在しない。まるで空っぽのまま音程をずらさないようにして歌う僕を、上手だと褒める誰かに曖昧笑顔を返すだけ。「いつか大切な誰かに巡り会う」ことをかつての友人が僕に説く。彼の結婚式の様子をふと思い出し、そうかもしれないね、と短く返答する。幸せに満ち足りた友人のいくつかの顔をぼんやりと思い出し、「彼女でない誰か」と微笑みながら式に臨む僕を想像してみる。そのとき、僕の初恋は完結してくれているだろうか、と。「彼女でない誰か」を大切にしているだろうか、と。

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