その会社に中途採用になったのは俺を含め2人だった。その時点で地雷の臭いが辺りを充満していて、俺は憂鬱になった。その会社は小さい会社だった。小さい企業が中途で2人も採用してくれるところはよほど羽振りがいいか、よほど人が多く辞める会社なのかどちらかだった。当然、俺の会社は後者だった。
俺は前の会社もサービス残業まみれにされて殺されかけた経緯があるので、なんとか残業に給料をつけて貰おうと交渉した。とにかく残業代をつけてくれと主張した。
上司「確かにうちは経営が芳しくないから残業代を払えませんよ? でも別に私は残業をしろとは指示してないですよね? 定時内に終わらせればいいと思いますよ」
俺「ですが、この仕事を期日までに終わらせるには人員を増やして貰うか、残業をしなければ終わりません」
上司「そうですね~」
急に同僚が割ってはいった。
上司「そう? でも俺君は残業しないと終わらないって言ってますけど」
同僚「僕は残業代とかいりません。会社に働かせて貰っているんですから」
上司「だって、俺君? 同僚君は金の事を気にしないみたいだよ?」
俺が金の事にうるさい駄目な奴みたいになっていた。働いた分のお金を貰う。それのどこがいけないのだろうか。ただあの空間に限って言えば2対1で俺の負けだった。
会社内では、金にうるさく会社への忠義のない新人と、金にうるさくなく会社への忠義心がある新人という構図になっていた。
これだと抗議をしづらい。どんな正論もその空間の空気には勝てない。
あるとき、俺は我慢仕切れずにその労働ダンピングをする同僚と話した。サービス残業をすることは損だと同僚に力説した。
俺「なんでだよ。働いた分だけ貰うのがいけないことか? 今までサービス残業をした分を計算してみろ。相当な金額になるって」
同僚「金のことしか考えてないの? 確かに短期的に見れば損だよ。でも現実を見てみろ。俺はサービス残業をするからお前より評価が高いんだよ。頑張れば、もう来年辺り、俺は早速昇進させて貰えるって昨日言われたよ。当然昇進したら給料も上がるし、地位も安泰になる。今ちょっと我慢すればいいだけなんだよ。大体サービス残業をすることでお前を蹴落とせるんだから儲けもんだろ!」
同僚はこう言った後、少ししまったという顔をした。俺が責めるように色々言ったから熱くなって言わなくてもいいことまで言ってしまったのだろう。同僚は結局「今のは言い過ぎた」と言い、すぐに立ち去った。
悔しくて仕方がなかった。なんというか、俺は会社にもいいように利用され、味方であるはずの同僚にも踏み台に使われたのだ。労働ダンピングおそるべしとさえ思った。
俺はすぐに転職準備を始めたが、すぐには仕事が決まらずに会社にぐだぐだといた。
そうこうしている内にその同僚は昇進を決めた。
それを聞いたが俺は敗北感に包まれたが、不思議なことが起きた。
その同僚は計画通りに昇進を決めて、意気揚々と仕事をするのかと思ったら、日に日にやつれていくのである。
どうやら、昇進して責任が増えてサービス残業の量も増えたみたいだった。昇進するために今までやってきた残業の疲れも祟っているのであろう。
さらにしばらく経った後に聞いた話だが、その同僚がついたポストは給料が俺より月5000円多いだけの糞ポストだったのだ。
思わず
"I Learned Something Today."
と言ってしまった。
サービス残業が評価されるような会社は上も下も真っ黒だと。労働ダンピングが戦術として通用してしまう会社は、そもそも糞だと。
俺は時間がかかったが別の会社に転職することもでき、ついでに今まで記録していたサービス残業代も労働基準監督署を通して請求した。
今日、その残業代分の給料が入っていたので記念にこの日記を書き記したわけだ。(記録をはじめたのは途中からだったからやはり損はしたが)
その同僚? 知らん。最後に「お前みたいな平は簡単に辞めれていいよな。俺みたいに責任があるポストにいると簡単に辞めれないんだぞ!」とほっそりとした顔で言っていたが、どうなったんだろうね。
その元同僚の体が壊れるのが先か、定年が来るのが先か。
労働ダンピングは経済的なダンピングと違ってやる側になんの得もねえなw 自分諸共周囲を地獄に引き摺りこむだけ。あほくさい。