会社帰り、駅地下にある書店の前を通ったら催眠術の本が平積みしているのが目に入った。
なんとなく面白そうだなと思って購入し、帰宅すると妻と猫が出迎えてくれて、リビングはクーラーが効いていて生き返る。
皆で晩御飯を終えた後、鞄からこっそり購入した本を取り出して中身を確認。
色々な種類の催眠術があって面白いなぁと思いページを捲っていると「相手が行為を抱いてくれる催眠」というものがあって、悪戯心でちょっと試してみたくなった。
財布から五円玉を探し、無事に発見。しかし程よい長さの紐がなく、仕方がないので愛猫のおもちゃを少々拝借。
5円玉に紐を結び、準備ができるとおーいと妻を呼んだ。
んー?と妻は後ろ姿で返事し、ちょっと来て。話がある。と深刻な声音を装って呼びかけた。
なになに?どうしたのー?と妻がやってくると目の前に座らせ、宙ぶらりんの五円玉を妻の眼前に掲げ、さっそく例の催眠術を試してみた。
うん、と返事し、五円玉を揺らしながら本に書いてあった言葉をゆっくり語り掛けた。
妻の目は左右に揺れる五円玉に添って左右に揺れ、心なしか目がトロンとしてきたように見えた。
これは成功したのでは?と思った矢先、妻が抱き着いて来た。
お?おー!?これは成功じゃないのか!?と思い、あの本凄いなーって感動していると、妻がハグを解いて僕の目の前でクスクス笑う。
ねぇ、今のどういう催眠術だったの?と妻が聞いてくる。
僕はネタバラシをして、妻に「催眠術にかかってた?」と聞いてみた。
妻は笑って、ぜーんぜんかかってないよと言う。
え?でもさっき抱き着いて来たじゃん。
こう言うと妻は再び抱き着いてきて、「だって、元々好きなんだからかかりようがないでしょ?」と僕の耳元で囁いた。
なるほどと、そう思いながらも反論はすぐに浮かんだ。
そう言い残すと男は塵となって消えた