彼は生まれつき片腕がない人だった。
受かったとしても、身なりが汚いという理由で表や裏で小言を言われることが多いと言っていた。
多分、小言というのは、彼なりにマイルドにした言葉だろう。彼はあまり文句や陰口を言うのを嫌う人でもあった。
制服がボタンなので、よくボタンが外れていることがあった。当たり前だけど、片腕でボタンをつけるのは大変なのだ。
手で髭剃り跡を確かめることが大変なので、本当に綺麗に剃れるものを見つけたときは喜んでいた。
体のバランスをとるために腰が横に曲がっているように見えるときがあった。
服を買って、一緒に鏡で見たとき、似合わないなあ、カッコ悪いなあと笑っていた。
小便器を使いやすいように、ズボンを買うたびに100均でマジックテープを買って取り付けていた。
ギョッとするじゃんって言っていた。
高くついちゃったって言っていた。
面接試験会場はバリアフリーだけど、スーツはバリアフリーないんだよなって笑っていた。
今どうしているかよくは知らない。
元気でいるということは聞いている。
結局志望の会社には入れなかったけど、出張の多い技術職に就いている。
本当は一度、バイトでもいいからアパレルの店員をしてみたかったと言っていた。