2023-02-22

anond:20230222123351

 短い点滅のあとで和室蛍光灯が点いたとき、尖浩二は気を失わぬために奥歯が割れるほど食いしばらなければならなかった。先程から感じていた鉄っぽい血と死の臭いは気のせいではなかったのだ。まだ暖かい液体が尖の靴下に染み込んで足の指を濡らしている。六畳間の床は赤黒い血溜まりと化しており、その中央には腹部を大きく咲かれ痙攣を繰り返す勉三の体が横たわっていた。そうして、

「うわぁ……べんぞうさんの中……すごくあったかいナリ……」

 決して誕生を許すべきではなかった人造生命体が……一度は理解し合えたとすら思えたかつての友人が……勉三の肚の中で血液にまみれ、大腸を引き抜いては陶酔した表情で頭部の髷に巻きつけるという、尖には理解し難い動作を繰り返していた。

「に……ゲる……ダス……」

 勉三のか弱い濁声にはっとした。そうだ。逃げなければ。改めて目を向けると、ちょうど勉三の瓶底眼鏡がずり落ちるところだった。隠すもののなくなった彼の両目は刃物乱暴にほじくり返され、今では暗い虚だけがそこにあった。

「マッ……」

 叫びそうになって抑え込む。そうして、部屋の凄惨な状況に背を向けて一目散に駆け出した。

キテレツ……! こんなときキテレツがいれば……!)

 しかしそれは叶わぬ願いだった。先週、熊田薫とみよ子の結婚式の余興で、薫のランクルに社外オプションで取り付けた対戦車ライフルによって蜂の巣にしてしまたからだ。

 その時の最高な盛り上がりを思い出し、一瞬気を抜いてしまたからだろうか。玄関の扉を開けるのに手間取った。血糊で手が滑り、ドアノブがうまく回らないのだ。ゴトリ、と金属製の重い音が背後からする。

「ひぃっ!」

 自身悲鳴かぶさるように甲高い声が聞こえた。

ハジメテ〜ノ……チュウ♪」

 聞き覚えのあるメロディ。いや、そうだろうか。初めて聞く旋律かもしれない。違う、そんなことはどうでもいい!

「開いて! 開いてよぉ!」

 焦れば焦るほどドアノブは回らなかい

「キミト……」

「んぐっ」

 それが尖の、ファーストラストKISSだった。

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