ン十年というスパンで彼女がいなかった俺に、最近ようやく彼女ができた。大事件である。
今は寝ても覚めても頭に浮かぶのはあの子のことばかり、というくらい彼女にぞっこん(死語)のメロメロ(死語)で、シャーワセいっぱいである。
一方で、自分の精神からまるでナタで切り落としたように消えてなくなってしまったものがある。
妄想の中だったら誰とでもつきあうことができたし、誰とでも寝ることができた。
総務のPさん、いつもちょっとだけ踏み込んだ世間話してくるよなー。あれは惚れてるね、俺に。
人事のQさん、俺と会った時だけ笑顔が特別かわいい気がする。あれも惚れてるね、俺に。
いつも行く喫茶店で俺の顔と注文を覚えててくれてるあの子も、まあたぶんだけど惚れてるね、俺に。
あとツイッターで頻繁にカジュアルなリプライを打って来るあの子も、ほぼ間違いなく俺に惚れてるね。
あとツイッターでごくたまに思わせぶりなリプライを打って来るあの子も、完全に俺に惚れてるね。
いやあ、こう考えるとモテてるな俺。
──といったような妄想を毎日楽しんでいたのだが、彼女ができたら全部どうでもよくなった。
なんなら、あれほど大好きだったアダルトVR(を見ながらのオナニー)ですら、積極的に見ようという気持ちが起きなくなってしまった。彼女とは軽くチューするだけで勃起するのに。
「嗚呼、男の人っていくつも愛を持っているのね」と歌に歌われたものだが、俺の場合は違った。
現実ライフがバラ色になった瞬間、妄想ライフがモノクロになってしまった。
これはこれで、どこか一抹のさびしさがある。