辞めたいんだと思う
小さな駅に併設されてる本当に小さな図書館で、司書さんはおばちゃんか、小柄なお姉さんか、メガネのおっちゃんかの三人しか見たことがなかった
子供用の本のスペースが広くて、靴を脱いで入るそこに放り込まれて母親が勉強してる間、こまったさんシリーズや、いせひでこの絵本を読んだ
ちょっと知恵が付くと靴を履いて小難しい専門書の棚もぐるぐる回った
手塚治虫のブッダ目当てに宗教の棚に行ってブッタとシッタカブッタを読んだ
近くにコスモス畑があって、図書館の帰り、母親が運転する軽トラの窓からそれを眺めた
小さな小川もあって、一回だけ途中で母親が軽トラを停めて、下ろして遊ばせてくれたことがあった
父親がいつも連れて行ってくれたのは、隣の市のちょっと大きな図書館だった
カウンターがでかくて図書カードはピカピカのラミネートで、絵本コーナーは一番奥
父親に引っ張られて絵本コーナーに放り込まれても、すぐに引き返してカウンター前の文庫コーナーに張り付いた
ジャンプ文庫が棚の端にちょっとだけおいてあった 眠り姫は魔法を使うとか、気まぐれオレンジロードとか、夏と花火と私の死体とか、父親に見つからないようにして読んだ
ジャンプ文庫はボロボロになってもずっと置いてあって、内容を全部覚えてても半年に一回くらい借りてた
狙い目は三階の人類学コーナーの近くの机で、コンセントも近いし会議室も遠いし西日がよく差し込む穴場だった
働いててもそんな図書館の光景とか、湿度の低い空気とか、胃がひりひりするくらいに静かな雰囲気とか、幾ら読んでも読み足りない本とか、そういうものがずっと体の中にある感じがして、急に泣きそうになる
詩的に言ったけど要するに仕事辞めたい