「ふかし」はダサいという風潮がある。タバコを吸うこと自体がダサいかどうかは置いておいて、この風潮は吸う人も吸わない人も同じくそう感じているらしい。
午後7時頃、友人と二人でサイゼリアに行った。
休日なのか人が多く、喫煙席しか空いていなかった。仕方なく端が少しヤニで汚れているメニューを取りパスタを選んでいると、隣のテーブルに男が座った。
男は長身で、身体にぴったりと合ったツイードのジャケットを羽織っていた。一皿300円から食べれるファミレスには似合わない上品さで、少し場違いだなと感じた。
それは友人と僕がパスタを食べたあとの時だ。
今度観る予定の映画のことについて話し合っている時、男はジャケットの胸ポケットから両切りのショートピースを取り出し、火をつけた。
上手く吸っているな、と感じた。男は少しずつ煙を吸っては吐き、たまにアイスコーヒーを飲んでいた。なんとも美味そうだった。男は携帯を見ることもなく、ずっと遠い目をして何かを見つめていた。
帰り道、友人にこの話をした。友人は、「でもふかしじゃん笑」と吐き捨て、そのままだった。嫌な気分にはならなかった。大多数の人はそう思うのだろう。ただ少し、寂しい気分になった。
ふかしはダサいという風潮がある。葉巻やパイプ煙草と同じように、元は紙巻きの煙草も「ふかし」で楽しむものだった。一説によると、戦時中に空腹感を抑えるニコチンを効率よく吸収させるために肺喫煙が流行ったらしい。その名残が今迄続いているというわけだ。街のコンビニを見渡せば、ニコチンを補充してますと言わんばかりに、みんなが急いでスパスパと吸っている。味なんて気にしたこともないだろう。喫煙者のマナーが悪いと言われても仕方がない。余裕がないのだ。ニコチンという強力な依存物質を切らしているのだから。
だから、「ふかし」はダサいという風潮がなくなって欲しい。口の粘膜で吸う「ふかし」はニコチンの吸収が緩やかで少ない。何日、何週間吸わなくても平気だ。そして、上手く吸ったタバコは堪らなく美味いのだ。
ただでさえ喫煙者の形見が狭い世の中、純粋にタバコを「ふかし」で味わうあの男を僕はとても格好よく見えた。
煙草を美味しく吸うために・・・クール・スモーキングのすすめ http://m.chiebukuro.yahoo.co.jp/note/n3352