2022-07-07

しばらく立ち直れそうにないBL

※極力ネタバレしないようにがんばる。


 ボーイズラブアンソロジーCanna vol. 84』を読んだ。最終回ラッシュだったのだが、ある一つの作品が全てを持ってく勢いだったので、同時に最終回を迎えた作品ちょっと気の毒な気もするんだけど、でも雑誌の講読者もけっこう自分の好みの作品以外は目に入らないっぽいので、大丈夫だったりするのだろうか。

 という訳で、全部読んだけど感想を書くのは一つだけ。


スリピングデッド』(朝田ねむい)



前回までのあらすじ

 高校教師佐田は、不審者対策の夜回り中、殺人鬼に襲われて死亡した。ところが、彼はマッドサイエンティスト間宮に拾われてゾンビとして蘇生され、被検体として飼われることとなる。

 どんな傷でもたちどころに治癒する、ほぼ不死に近い体になってしまったのとひきかえに、ヒトの屍肉しか食べられなくなってしまった佐田。彼の食糧を得るために間宮殺人を企てる。佐田間宮非難したものの、間宮殺人幇助するようになり、そして次第に罪悪感を麻痺させてゆく。

 間宮邸での暮らしにすっかり慣れた頃、佐田生存と居場所が彼の元同僚にバレてしまう。逃亡せざるを得なくなった佐田間宮だが……。


増田感想

 こんなにしんどいBL最終回、見たことがない。

 追い詰められてゆく間宮描写が凄かった。生来、口が悪くて言いたいこも言うつもりじゃなかったこともずけずけ言ってしま性質間宮が、佐田の前で絶望未来予測を口走りそうになりながらも、佐田を案じて虚勢を張り、皮肉を言うのを堪えつつ、率直な言葉で愛を告白し、大丈夫だと佐田自分自身に言い聞かせる。動揺しつつも気を奮い立たせてすべき事をするはずが、行動を起こすことそのもの現実逃避に繋がり、佐田の声を聴く耳を塞ごうとする。ともすれば自分の殻の中に逃げ込み閉じ籠ってしまいそうなのを、佐田への強い愛情が辛うじて引き止める。

 間宮の行動原理はとっくの昔にすり変わっている。ゾンビ研究で成果を出し名を上げて彼と彼の大伯母を馬鹿にした奴らの鼻をあかすことではなく、すべては佐田を生かすために。

 だが当の佐田間宮研究に没頭しろと諭す。辛いことも悲しいことも忘れさせてくれるほど、熱中できることを持てるのはいいことだと。一人きりでも生きていくには。間宮にとって、何もかも忘れることが出来るほど熱中させてくれるものは、とっくのとうに研究ではなく佐田に置き換わっていたというのに。佐田言葉間宮にとってあまりにも残酷だ。

 ラスト数ページの、佐田のために間宮が狂っていく場面は圧巻だった。

 ここまで受けが攻めに対するクソデカ感情を持ち、それに狂わされて堕ちていくBLって珍しいんじゃないかなあ。どちらかといえば、そういうのは攻めの役割になりがちかと。

 恋情と憧れ、劣等感嫉妬、憎しみ、罪悪感そして献身……それらがごちゃごちゃに混ざって爆発寸前な感じ。むしろBLよりも百合十八番のような……ずっとBLなのに百合百合しい作品だった。『さようならアルルカン』『少女革命ウテナ』『魔法少女まどか☆マギカ』『ルックバック』が好きでBLも読めるという人は是非どうぞ。

 はぁ、むっちゃ泣いたわ。しばらく立ち直れそうにない。

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