2020-07-06

バイト日記

 前回のシフトは休んだので、数日ぶりの出勤だった。私が休んだ日の翌日にシフトに入っていたAさんが教えてくれたが、

あいつ、いつもは金曜には来ないのに来やがりましたよ。たぶん、増田さんが前日休みだったから翌日に来ればワンチャン会えると思ったんだと思います

 ということだった。あいつとは、いつもの、私のレジしか並ぼうとしないお客様のことだった。あーやっぱりとしか言いようがない。

 いつも通り、私がカフェマシン洗いに没頭していた時、私のレジしか並ぼうとしないお客様が来店したので、Aさんが今日もまた来やがったと思ってレジで私のレジしか並ぼうとしないお客様の動向を観察していた。そしたら私のレジしか並ぼうとしないお客様は意外にもいつものように私がレジにつくまで店内をうろついて待つことをせずに、「実に流れるようなムーブで」アイスコーヒーカップを買っていったので、Aさんは『そ、その手があったか!?』と思ったそうだ。

 その手とは、私がカフェマシンに洗ったパーツを組み込んでいる横に来て、アイスコーヒーを淹れて行く、という接近方法である

「ここ使ってもいいすか?」

 と、私のレジしか並ぼうとしないお客様からいきなり話しかけられたので、私はびっくりしたが、これは目を合わせたらいけないやつだと思い、組み立て作業から顔を上げずに「どうぞ」と答えた。だが、お客様アイスコーヒーを淹れてる最中こちらをチラチラ窺ってくるのが視界の端の方に見えたので、目を上げなかったら上げなかったで勘違いされるパターンなのかもしれない。

 私のレジしか並ぼうとしないお客様が帰って、その後カフェマシンの組み立てが終わったのでレジに戻ると、Aさんが「またあいつ、来やがりましたね!」と大興奮していた。今度は予想外の手で接触を図ろうとしてきたのが面白かったらしい。そら他人事だったらおもしろおかしネタか。私はさすがに引いているのだが。

 すぐ横からしかけるという、今までにない距離の詰めかたをしてきた挙げ句、三回に分けて店内のゴミ箱ゴミを捨てに来るということまでしてきたので、私のレジしか並ぼうとしないお客様もさすがに今日は満足して二度目の来店はないんじゃないだろうか、と私とAさんは予想していたのだが、二時間半後くらいに私のレジしか並ぼうとしないお客様はまたやって来た。今度はいつも二度目の来店の際に高確率で連れている高齢男性と一緒だ。レジ会計中に私のレジしか並ぼうとしないお客様とそのお連れ様がハイテンションでしゃべくりまくっているので、ちょっとその会話に耳を傾けたが、会話の感じからどうやら二人は親子のようだ。仕事仲間っぽくない気がする。まあ、集中して聴いてた訳じゃないから外れているかもしれないが。

 私のレジしか並ぼうとしないお客様とそのお連れ様が騒ぎながらまたアイスコーヒーを淹れている間、私はレジ下にしゃがみ込んで(そこならカフェマシンの所から見て完全に死角になる)、迷い込んできた甲虫と遊んでいた。うっかり踏み潰しちゃうキモい虫だけど、こうして掌を這っている姿を見るとかわいーなーと思いながら。

 私のレジしか並ぼうとしないお客様が帰った直後にAさんが事務所から出てきて、「さすがにあれはもう、完全にヤバい人ですよね」

 と言った。さしものAさんも引いていた。もうこれオーナー相談案件かもしれないが、出待ちとか店外でのストーキングみたいにクリティカルヤバいことをしてくる訳でもないし、お客様お気に入り店員をかまうのは日常茶飯事な光景でもあるので、どうしたもんかなと話し合った。しかし、ここ最近の急な間合いの詰め様はやっぱり怖い、というのが夕勤メンバーの総意なのだ

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん