「あなたたち、何をやっているのか!」
というより、実質的にその範疇に収まるから、俺たちはこのルールで戦っている。
なのにルビイ先生は、二人の間にすぐさま割って入った。
「イジメが駄目だということくらい、みんな分かっているでしょ!」
先ほどの盛り上がりが嘘のように、辺りは静寂に包まれる。
「……イジメ?」
ケンカだという理由で止めたのならまだ分かるけど、何でイジメなんだ。
「ルビイ先生? 何か誤解があるようですが、これはペットボトルによるチャンバラであって―――」
「そのペットボトルで、チャンバラという名目で、ツクヒ君は一方的に殴られていたと?」
どうやら、『(先生が)その時に見た場面が、一方的のようだったから』という理由で、イジメと判断したらしい。
実は俺たちの知らない価値観があって、それを基準に判断したのかと思ったら、ただの早とちりだった。
「いや、ルビイ先生。確かにやや原始的な争いではありましたし、健全だと断言するものではなかったかもしれませんが、これをイジメと判断するのは大雑把すぎるのでは?」
「言い訳なんて聞きたくありません! どんな理由があってもイジメていいことにはならない!」
「落ち着くのは、みんなの方です!」
当事者の主張すら捻じ曲げてきた。
みんなの言い分を聞いてから理解を深め、それでも安易に白黒決めたりしない人だ。
生徒をちゃんと見てくれているという実感をくれる、信頼できる先生のはずなのに。
これじゃあまるで、俺たちが嫌っている大人そのものじゃないか。
「ちょ、ちょっとルビイ先生。二人の話をちゃんと聞いてやりなよ」
「あなたたちも同罪です! こんな状況になるまで見て見ぬフリをするだなんて!」
周りがフォローしようとしたら、見境なくこちらまで巻き込んでくる。
取り付く島もない。
そして有無を言わさず、教科書にのっているような道徳を語り始める。
本来の授業などお構いなしに、それは数十分も続いた……。
その日の昼休み。
グラウンドの鉄棒がある場所で、俺と仲間たちは今回の件を話し合っていた。
『今回の件』というのは、ブリー君のことだとかペットボトルによる戦いだとかじゃない。
ルビイ先生のことについてだ。
「あんな取ってつけたような説教をする人じゃないと思っていたが……」
「私、すごく驚いたんだけど、あれはもうヒスよ」
その場にはブリー君とツクヒもいて、同じく話に参加していた。
「ぼくは転校してきたばかりだから、ルビイ先生のことはよく知らない。けれど、冷静じゃなかったのは確かだね。さっきのツクヒよりマトモじゃなかったよ」
「そこでオレを引き合いに出すな」
少し前にあったギクシャクした関係は、もはやどうでもよくなっていた。
それよりも、明らかに様子のおかしかったルビイ先生をみんな心配していたんだ。
「ツクヒと同じく虫の居所が悪い日だったのかな」
「仮にそうだとして、ルビイ先生があんな風になるか? 今まで見たことないぞ」
「うーん……ドッペルはどう思う?」
俺はドッペルに意見を仰いだ。
みんなが話している間も、常に何か言いたげだったからだ。
「み、見たんだ」
すると恐る恐る、一言ずつ噛みしめるように喋り出した。
目にクマ?
それはいつも通りな気もするが。
「いつもより濃かった!」
なるほど、濃さが違ったのか。
「鉛筆で例えるなら?」
なんてこった、大変だ。
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