2014-08-21

ひと様からすれば馬鹿のものであることを理解しつつ書くのだが、私は夫を世界で一番愛くるしいと思っている。うちには猫が一匹いて彼も素晴らしく愛くるしいのだが、僅差で夫の方が勝っている。

はいえ私も客観性というものをすべて喪失したわけではないので、自分のこの感情脳内で分泌されている何かがいい感じに働いた結果の錯覚であって、181cm85kgの胸板ぶあつく眉ふとくやたら色黒でババコンガにちょっぴり似ている中年男は、他人から見ればもしかすると愛くるしくないのかもしれないくらいのことには薄々気づいている。気付いてはいるが、だからといってこの錯覚が消えるわけではなく、相変わらず夫は狂おしいほどに愛くるしいのである

時々私は感情のフタがぱかっと外れてしまい、

「なんて可愛いの! かわいいねえ、かわいいねえ」

などと半ば叫ぶようにしながら夫に駆け寄ったりしてしまう。そんなとき夫の顔に浮かぶ表情ははっきり言ってしまえば「恐怖」である顔面をひきつらせながら私を避け、足早に去って行ったりする夫。それが悲しいので私はなるべくクールを装い、夫の前では何気ない振る舞いを心がけている。苦しい。

ちょっと太ってお腹がでてきた夫はぬいぐるみみたいでかわいかったし、ダイエットして痩せた夫の喜びの笑みといったら天使のようだった。

夜寝苦しいのか手足を変な風に伸ばして寝ている様子もあほっぽくてかわいい。寝顔が時々むちゃくちゃにぶさいくになってるのも胸をかきむしりたくなるほどにかわいい

夫は時々私にちょっとした作業を押しつけたりするのだがこれがまた絶妙に憎めない愛くるしさで行われるので、つい許してしまう。わがままを言い張る様子のかわいさがもうなんつうの芸術? かわいさの芸術? とにかく見てると平常心ではいられない。

「なんて可愛いの! もうなんでも頼んで!」

などと叫びだしたくなるのだが、たぶんそれをやるとまた夫は怯えて逃げていくので、私は表面的にはぶつぶつ文句を言いながら「仕方ないなあ」などとため息をついて見せるのだ。

かと思うとやらなきゃいけないけど気が重いなあと思っていた作業を夫が知らない間に片づけてくれることもあって、感激しつつ礼を言うと夫は照れるわけなんだが、あれはやばい、あの様子は愛くるしすぎて何かを破壊してると思う、具体的には私の脳細胞とか分別とか美的感覚とか、そういう重要ブツ破壊しているような気がする。


などと思いながら暮らしていたら妊娠した。来年には子供生まれる。今のところは順調で、周囲も喜んでくれていて、私は幸せ者だ。

ただ一つ、不安というか恐ろしく思っていることがある。

だってたぶん、赤ちゃんて夫よりかわいいかわいいよな? 赤ちゃんより夫の方がかわいいという話は寡聞にして知らない。

しかすると私の脳内で起きている錯覚が、出産を機に失われてしまうかもしれない。夫がただのババコンガ似の中年男にしか見えなくなって、全然かわいくないじゃん昔の私はなにを考えていたのかしら、とか思い始める可能性はじゅうぶんある。

ホルモン関係で夫に興味が向かなくなる妻の話を聞いたことがある。育児の大変さで産後クライシスとやらが訪れて、夫婦仲にヒビが入るとかいう話もよく聞く。夫が憎くなるとか、殺意を覚えるとか、そういう話も何度も読んだ。

嫌だなあ。

その時が来ればまた全然別のことを感じるのかもしれないけど、こんなに愛くるしくて大切な夫のことを、もしかしたらそうは思えなくなるなんて、現時点の私にはちょっとした恐怖だ。一生そばにいて出来るだけ大事にしたいと思う人だから結婚したのにその気持ちが消えるなんて、悲劇だしホラーじゃないか。

どうかそんなことにはなりませんように。子供が生まれるのは素敵なことだし、その子が親元を離れるまでの十数年はたいへんかもしれないけど家族全体にとっての蜜月のはずなんだから、その期間をちゃんとしっかり楽しめますように。

不安不安だなどと思いつつも寝がえりを打つと、隣で夫がまたぶさかわいい顔で気持ちよさそうに眠っているので、この人と一緒なら全部なんとかこなしていけそうな気がして、やっぱり夫の愛くるしさはすごいなあ魔法みたいだ、と私はまた感激してしまうのだった。

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