昨今の原料費と人件費の高止まりで多くの中小メーカーが事業の方針転換を迫られる中、
「このね、『メス牡蠣わからせ棒』を使って、うちオリジナルの『種付プレス』でメス牡蠣をわからせるんですよ」
そう語るのは、「種付おじさん」こと種付小次郎さん、プレス加工を手掛ける中小メーカー「種付プレス」の社長だ。
種付さんの会社では、数年前から地元名産の牡蠣の養殖を支える事業に取り組んでいるという。
しかし、なぜプレス会社が牡蠣の養殖に手掛けることになったのか。種付さんはこう語る。
種付さん「今までのプレスを続けるのもよかったんだけど、このままじゃもたなくてね。何か新しいことをやろうって話になったときにやっぱり地元のためになることがしたくて」
このとき種付さんが思い出したのは、牡蠣の養殖業をしていた友人が語っていた、牡蠣の繁殖が悪いという悩みだった。種付さんによれば、エサを食べるためにメス牡蠣が雑魚を煽りすぎてしまい、産卵期がわからなくなったことが原因だという。
種付さんは、会社の技術で解決できないかと思い、地元の大学の助けを借りながら、産卵期をいかにメス牡蠣にわからせるか、試行錯誤を繰り返した。
あるときは、メス牡蠣に菌網といわれる変色が発生することがあった。またあるときは、挑発しているかのようにまったくメス牡蠣が卵を産まないことにもあった。失敗が続く中、種付さんはストレスから前髪がスカスカとなってしまったという。
しかし、「種付おじさん」は決して諦めなかった。メス牡蠣には絶対負けない、その闘志が種付さんを支えていた。
その結果、ついに特別に作製した黒い棒でメス牡蠣の生殖器官を特殊なピストン運動で刺激して、産卵率を劇的に向上させることに成功した。
詳しい仕組みは企業秘密とのことだが、この特殊なピストン運動は、社名と同じ「種付プレス」と言われる独自のプレス技術を使っているという。
種付さん「この棒は『メス牡蠣わからせ棒』と名付けたんです。この棒でメス牡蠣の中を突いてやると、繁殖する気のない鈍生(なまいき)なメス牡蠣でも赤ちゃんを作らなきゃという気になる。結果が分かった時にはもう『はい勝ちー!』と思ったね」
こうして種付さんはメス牡蠣をわからせることに成功した。地元を救った種付さんは「種付おじさん」として全国に名を知られるところとなる。今後の展開について種付さんはこう語る。
種付さん「これからは、全国で同じように牡蠣の繁殖に困っている水産業の方を支えたいなと。ゆくゆくは日本中の鈍生なメス牡蠣を『メス牡蠣わからせ棒』と『種付プレス』でわからせたいと思っています」
泣ける話だ