2021-12-19

文章練習用に30分で書いた特に意味のないテキスト

例えば夕食の余りを弁当に詰めるように。

あなた普段通りの習慣という顔をして頸動脈を切った。

吹き出した血が、びしゃびしゃと跳ねた。

 

それがどうにも見慣れた光景に見えたから、私はただぼんやりと見つめる。

倒れ伏したあなたの傷口からは絶えず血液が流れ出して、床をてらてら光らせた。

 

おそらくは救急車を呼んだ方がいい。

そうは思うものの、私はすっかり途方に暮れてしまう。

これであなた死体は五人分に増えた。

先に死んだあなた達はすっかり身を固くして、冷たく横たわっている。

 

錆びた蝶番が僅かにきしむ音。ドアが開く。

こつこつと響くビジネスシューズ靴底を私は知っている。

次のあなたが来た。

 

「そろそろ死ぬ気になったかい」

 

あなたが言う。

正直なところ、私は随分あなたの死に慣れてきてしまっているけれど。

それを言うとあなたは傷付くだろう。

 

「こんなに次々死なれてはね」

 

部屋に横たわる五人のあなたと、六人目のあなたを見回す。

あなたは私に心中を求めている。 私の自由意志からなる心中を。

そうして五人のあなたが、私に見送られて死んでしまった。

 

感傷に浸る暇もない。 最初の時に考える時間が欲しかった」

 

一番最初あなたが死んだ時は、確かに死んでしまいたいほどの衝撃があった。

しかしこんな風に次々にあなたがやってくるものから、どうにも感情の置き場がない。

 

「困ったな」

 

あなたは言う。本当に困っていそうな顔で。

きっと衝動で行動してしまったのだろう。

本当に馬鹿なんだから

 

「とりあえず死ぬのをやめようよ。 私が困るだけだから

 

そう言って椅子を引く。 電気ケトルで湯を沸かす。

 

「話し合いで解決できないことはあるけれど」

 

ポットに湯を注ぐ。ティーバックを放り込む。

 

「今の私達に必要なのは、話し合いだと思う」

 

あなたは、バタフライナイフを折りたたんだ。

そのままテーブルに置く。

五人の命を奪ったものと、同じ形のナイフ

 

「そうだね、そうかも」

 

椅子の足が床に擦れる音。

 

「話し合いで解決できないことはあるけれど」

 

あなたは私の目を見て、頷く。

 

「好き勝手にやると解決できないのは、わかったよ」

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん