いや食わんのかい!
私は小学校2年生だった
海無し県なのにそこそこ新鮮で良い魚を揃えている魚屋で
スーパーの駐輪場に出る焼き鳥屋と鯛焼き屋目当てで買い物について行った
緑色のプラスチック笊ですくわれたドジョウは我が家のものになった
食べられて死ぬドジョウと生き残ったドジョウは魚屋の手の動き次第で
きっと事故で死ぬのもそんな感じだろうなと思ったのを覚えている
ドジョウは不安定なビニール袋に入れられていたので私が持つ事になった
そこでわずかに責任感と、動く生き物の感触への庇護欲が芽生えた
いや嘘だ、それは大人になった自分の感性であり私はもっと愚鈍な小学生だった筈だ
とにかく私はドジョウを無事持ち帰った
母はドジョウを下洗いし、衣をつけ、揚げ油に入れていった
ドジョウはほんの数センチ油鍋の中を泳いでからぷかっと浮かんだ
私はその様子が恐ろしくて、母に頼んでドジョウを三匹分けてもらった
イチゴの空き容器に入れて飼おう、このドジョウを守ろうと思った
めそめそとしている私を尻目に祖父は揚げたてのドジョウを食べた
祖父っ子だった私もそれに倣って食べた
これが異様においしかった
泥臭さもなくサクサクとして塩だけでも旨味があった
揚げ油はまだ温かく別のものを揚げている
「これも揚げて」と言った
いただきますとごちそうさまは必ず言う事にしているが
良いもの読んだ