それが当たり前だと言うように毎日、7時半に家を出る。駐車場に停めた車に向かうまでに深呼吸を二度して空を見上げる。
そこに意味は無いけれど、生物として朝日の温もりを自然に求めているのかもしれない。
勤務先へと車を走らせている途中、ラジオでクラシック音楽を聴く。ジャズに似た旋律のせいで後でメロディーを思い出せた事がない。
海から離れた場所にある、山に囲まれたこの街の車窓からは色褪せて錆び付いた看板と工場とコンビニと枯れた樹々と最近増えた東南アジアやブラジルからの労働者ばかりが視界に入ってくる。
子供の頃はこんなにも色の無い街だと思わなかったのに、気が付かなくて良いことばかり気がつくようになる。
ずっと住んでいる街だ。高校を卒業して専門学校を卒業するまでの二年間だけ山を越えた先にある街に住んだことがあるがそこもまた似たような景色だった。
日に日に色彩が無くなっていくこの感覚は子供には理解できないだろう。
驚いたのが社員旅行で行った、ハワイと呼ばれる島だ。初めての海外で正直期待していなかったが目に飛び込んでくる原色のエメラルドグリーンの海、白い波、風に揺れるヤシの木、青い空と少しの雲、どこまでも続く水平線に沈んでいくオレンジ色の太陽はいつまで見ていても飽きることは無かった。
住んでいる惑星が一緒なのか疑いたくなるくらいこの街とあの島はあまりにも違う。
唯一似てるのなら空の景色ぐらいだろう、だから私は色褪せようの無い日の光や霧のかかった山々、冬の夜空に惹かれてしまうんだと思う。