街中で度々、偶然に出会う青年がいる。彼とは行動する時間と場所がたまたま近いらしい。彼は僕がその昔飲食チェーン店で社員をやっていた頃アルバイトで来ていて、当時高校生だった。彼は性格の良い人物で笑顔も爽やかで人気があった。
僕は現在飲食チェーンは辞め、しがない中小の広告代理店でグラフィックデザインをしている。もともと接客は得意では無かったので現在の職は性に合っていると思うが、給料はかつての3分の2程になり、昇給も見込めないまま10年が過ぎた。
彼とは年に数度偶然出会う。僕はいつも気がつかないのだが、彼が声をかけてくれる。連絡先も一応交換したが連絡を交わしたことはない。また会うだろうと言う事で。
彼は会うたびに変化している。最初は就職したてだった。次には独立していた。次には彼女がいて、さらにその次には彼女と結婚して子供がいた。
昨日会った時には白髪が混じっていた。まだ30代なのだが、おそらくもう禿げないというサインだろうから羨ましいよ、と僕は薄くなり始めた頭を触りながら言った。
僕は婚活をしているが上手くいかない。カップルになって連絡先を交換するところまでは何度か行ったが、その後がどうしても続かないのだ。
色々人に言えない問題も抱えているだろうが、僕には彼は幸せそうに見える。自分には何もない。しかし、彼の事が羨ましいというよりは、自分がこんなに何も変化がなくて恥ずかしいという思いの方が強い。