彼は気骨のある若者であると同時に、反骨精神溢れる若者でもあった。
手ごろな棒を片手に村を闊歩して、時にそれを振りかざして見せたり、或いは素振りをして見せたり。
しかし、そんな彼の粗野な振る舞いを、いつまでも村長が見逃すはずもなかった。
「貴様は何をやっている」
少年は怯まず、取り繕うこともなく、屈託のない表情で答える。
「見れば分かるだろう」
小癪な態度に年長者たちは色めき立つが、村長は依然として訊ねる。
村長の毅然とした返しに、若者はフンッとあからさまに不機嫌そうな鼻息を吹き付ける。
周りを威嚇するかのように、大きな体で腕を広げて見せて答えた。
「棒を持って村を歩いている。それだけだ」
「それだけ?」
「振りかざして見せたり、素振りをしたこともあるが、当たらないという確信があるときだけだ。実際、これで人を殴ったことは一度もないし、そんなつもりもない」
実際、嘘を言っていなかったし、故に心から自分に否がないとも確信していた。
「まあ、それでも当たる人間がいるとするならば、それは自ら当たりに行くくらいだが、それは自業自得だ。俺は悪くない」
どうだとばかりに口元を緩めるが、村長は依然としてたじろぐ様子も見せない。
「ふむ、無理やりやめさせてもよいが、出来ればワシもお前に納得してもらった上でやめてもらったほうがよい」
すると、おもむろに町長は近くにあった小枝を拾い上げると、少年の顔のまえに突きつける。
当たることはないのだが、その勢いに怯んだ少年は後ろに倒れこんでしまった。
「さて、貴様の真似をしてみたが、どうかな?」
すぐに立ち上がると、「ふざけるな!」と怒号する。
「異なことを。腕を目一杯伸ばしていたのに、それでも小枝はお前から離れておる。その状態から腕だけ振ったのだ。貴様も、そのつもりで振りかざしたり、振り回したりしていたのだろう?」
「貴様は『殴っていない、殴るつもりもない』などといっているが、本来そんなものを振りかざしたり、振り回す時点で問題なのだ」
村長は畳み掛けるように話を続ける。
「さて、貴様が納得した上でここでそれを置いて帰るならよし。できぬなら、これから毎日貴様の前で我らは振り続けよう。もちろん当たらないように。貴様のほうから当たりに行くなら話は別だが、それは自業自得なのだろう?」
若者はとうとう観念し、八つ当たりするかのように持っていた棒を地面に突き刺した。
それからも少年は気骨溢れる生き方をしたが、棒だけは二度と持つことすらなかった。
後に彼が村長となったとき、子供たちに「棒を持つな」と言い聞かせていたという。
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