2015-07-26

残留した殺意

夫の浮気の確たる証拠を掴んだ妻が嫉妬に狂い、次に夫が女を部屋に連れ込んだ時に夫を出来るだけ残酷方法で殺してやろうと心に決めた。

そしてついにその時が来た。事前に夫が今日女と会うという情報を入手した妻は、包丁を握りしめたまま寝室のクローゼットに隠れた。

出来事の一部始終を記録しようと考えた妻は寝室が全て見える位置にビデオカメラを設置し、音声もレコーダーで録音している。

かくして夫は狙い通り、女を連れて妻の隠れ潜む寝室へとやってきた。二言三言交わしながら夫と女は服を脱ぎ始め、裸で抱き合う。

いざ、というタイミングで妻はクローゼットからわざと大きな音を立てて飛び出した。

「殺してやる!」妻は躊躇する事なく包丁を突き出す!しかし夫の脇腹をかすめ薄く傷を作っただけだ。

しかし妻は脇腹を伝うほんの少しの血を見て、急に自分のしている事の恐ろしさに気がついた。

包丁を取り落とすと、ごめんなさいと叫びながら泣きだしてしまう。

「今さっきまでアナタを殺そうとしたわ、でももう無理、私はもうアナタを殺す気はないわ。」なんどもしゃくりあげながらそんな事を言った。

突然の出来事呆然としていた夫は、今自分の身に降りかかろうとしていた事をようやく理解した。

その瞬間彼の胸中を支配したのは、悲しみや後悔ではなく怒りと憎しみだった。

彼は妻が自分を殺そうとした事に腹をたて、泣きじゃくる妻に飛びかかると容赦なくその首を締めあげた。

「この野郎!殺してやる!」その顔は狂気に満ちていた。そのままでは間違いなく殺されていた。

妻はなんとか指を伸ばし、包丁をもう一度その手に収める事に成功する。

しっかりと柄を握ると、朦朧とした意志を総動員し、その刃を、しっかりと、夫の、首に、突き立てた。

「以上がその日、寝室で起きた出来事です。」

妻の手によって録画されたビデオ、音声、連れ込まれた女の証言、妻の供述

全てがそれらの出来事真実だと告げていた。

「確かに、夫が部屋に女をつれこんできた時、私の心には溢れる程の殺意が沸いておりました。

 しかし夫に懺悔をしている時はそれはもう既に消えてしまっていて、最後の瞬間にはただ自分が生き残る事だけに必死でした。」

言葉少なに、しかししっかりと妻であった女性はそう供述している。

しんと静まり返った室内に裁判長の木槌の音が響く。

「これより判決を申し渡す―」

さて判決は?

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