話さ、あくまでも仮の話だ。
美しいままのその花もいつか/少しずつ乾いてゆくことになる
いつまでもこうして眺めているさ/嬉しいやら哀しいやら
いつかの僕は彼女の寝顔を見ながら「嬉しいやら、哀しいやら」と、悦に入った。
彼女のことを本当に愛していたとか、その想いの程度を説明するのが難しい。不毛とさえ。
誰かに認めてもらう必要がないぐらい、彼女のことが大切だった。
大切というか、……彼女は僕自身だった。言葉にしづらいけど、他の人とは違ったということ。
若かった僕は、彼女の大切さを気付かずに、自分の人生さえも軽く考えていた。
「なんとかなるだろうし、彼女よりいい女とも付き合えるさ」なんて、若気の至りどころじゃない。
あっという間に。とても、幼いままに。ままごとのように。
幸か不幸か、共通の友人が多かった僕と彼女は別れた後も会うことがあって。
割りと仲は良い。勿論、セックスやそういった類いのことは何もない。一線。
彼女は僕が知らない人と結婚したし、……セックスとか、そういうのって安易で退屈すぎる。
僕はといえば、たまに若い子と付き合ったり、すぐに別れたり。結婚願望もない。
子供がおらず、旦那さんが単身赴任な彼女と、たまに会う。1ヶ月に1回ぐらい。
食事して、少し呑んで、くだらない話しで笑ったり。
元々の相性が良かったんだろう、2人でいると会話は尽きない。一線を残して。
可愛くて、美しくて、綺麗で、気立てが良かった彼女も、40歳を過ぎたらオバさんだ。
自由奔放だった性格は、肌のシミとして残された。
少しずつ乾いていく彼女を、ゆっくりゆっくり見ているのがとても幸せで。
「この前、紫陽花を見てきたの」と、彼女のiPhoneにある写真を見せてくれた。
決して、iPhoneを僕には渡さずに。
たくさんの紫陽花の後の方に、同じぐらい多くの旦那さんとの写真があった。
夫として、彼女のことを看取るんだろうと思っていた。そんな未来はこなかった。
それでも幸せだよ。僕らは今の距離感がちょうど良かったんだろう。この、一線が。
乾いていく彼女が、僕だけが知っている、その乾き具合が、そこや、そこや。ああ。
僕のとなりで無邪気に喋ってる彼女に、唯一の秘めごと。
老いていく君が、とても愛おしい。
決して枯れない花をそのまま/そっと記憶の庭に埋めた
いつまでもこうして眺めていたい
増田ポエムは例外なくキモいが 中でも男が書いたものはキモさの格が違う