本当にそんなやついたのか自分自身も記憶が曖昧くらいの微妙な世代ではあるのだけれどもかつて存在したという怒ってくれる近所のオヤジはもう死んでしまったのだ。理由はわからない。核家族化とか地域コミュニティの希薄化などはメロスにはわからぬ。メロスそういう難しいのわからぬ。なのでメロスは走った。走り続けた。友を助けるために昼夜を問わず走り続けてあと走ってたら暑いから途中で寄ったコンビニの冷凍庫とか入ったりした。あずきバーめっちゃ固くてくるぶしの骨と当たってゴリッって言って超痛かった。それでもメロスは頑張って走った。すべては親友セリヌンティウスのためである。日没が近づいている。メロスは不安に思った。セリヌンティウスはまだ死刑にされていないだろうか?メロスは走りスマホでツイッターをチェックしたがまだ死刑なうのツイートはタイムラインに流れてこなかった。大丈夫だきっと間に合うはずだ、メロスはこめかみを伝う大粒の汗を拭おうともせず走り続けた。もう間もなくで王の城につく!メロスは私有地を突っ切ったら早いんじゃないかと思い完全に立ち入り禁止と書かれている柵を飛び越えた。
「こらー!」
怒声がメロスの耳をつんざく。オヤジだ!怒ってくれる近所のオヤジはまだおったんや!メロスは思わず関西弁になった。オヤジがさらに何か言っている。
「まだこんなところにいるのか!早く逃げろ!」
オヤジが早くこっちに来いと手招きしている。何事かと思い後ろを振り返ると空が真っ黒だった。イナゴだイナゴの大群だ!メロスは走った。もうセリヌンティウスとの友情だとか約束だとかどうでもいい逃げなければ、あのイナゴから何としても逃げ切らなくてはならぬ。メロスは走った。瞬く間におっさんを追い抜き駆け続けた。イナゴの群影に取り込まれたおっさんは瞬く間に白骨となった。やはり怒ってくれる近所のオヤジなんておらんかったんや!メロスは再び関西弁になった。やがてメロスもイナゴに追いつかれた。イナゴに目をつけられて生き延びられる人間などこの世にいはしないのだ。これがこれからの私刑のスタンダードである。地震、雷、火事、イナゴ。大イナゴ時代の到来を謳う黒い影はもう白骨化したメロスになんか目を暮れもせず新たな獲物を探し北へ北へと進んでいった。