2021-03-12

[] #92-9「サイボーグ彼女

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“血を吐きながら続ける悲しいマラソン”みたいな表現を聞いたことがある。

最初に言い出した人が誰かは知らないが、たぶん本当に血を吐いたわけではないのだろう。

そんな地獄のようなマラソンが、マラソンといえるほど長く続くわけがいからだ。

母の復讐によって、シックスティーンは金という名の血を吐き続けるしかない。

しかし、血がなくなるまで走り続ける根性なんてシックスティーンにあるわけもなかった。

かといって、「もうやりたくないです」と言ってやめられる戦いなどない。

これは血がなくなるかどうかという戦いではなく、母の気が済むかどうかの戦いだ。

ならばシックスティーン手段を選んではいられなかった。


「おや、始めてみる新型ですね」

後日の戦いで、シックスティーンは新たな機体を投入した。

その機体の姿は、遠くから見ても分かるほど異様だった。

例えるなら、鉄腕アトムプルートゥと、ポパイブルートを足して2で割った感じだ。

ガワだけは人型っぽく見せてはいたが、体格は明らかに人間離れしている。

その見た目がハリボテでないことを母は察していた。

「いよいよ、本気を出してきたってところね」

あのバカかいロボットの裏で、頭を抱えているシックスティーンが見えるようだ。

穏やかではない状況ながら、母はどこか嬉しそうだった。

ちなみに、この時に戦ったロボットこそ、現在では近所仲間のムカイさんである

もっとも、この頃はムカイさんって名前じゃなく、製造番号の下2桁ケタで呼ばれていたらしいが。


この“大型ロボット”に対し、母は初めての苦戦を強いられた。

今までは遠慮があったものの、もはや多少の怪我はさせてもいいと開き直ったのだろう。

レギュレーションがあるので全力というわけではないが、今まで母が戦ってきたロボットとはワンランク違う相手だった。

無駄だ! お前の攻撃は、オレの体に何の意味も与えない!」

その強さは、機体の耐久力はもちろん、極めつけはそのAIにあった。

これまでの母の戦闘パターンインプットしており、的確な対処可能としている。

しかもこのAI、何を隠そう、母を誤爆をした時に使われていた人格データと同じである

もちろん、人に大怪我させた曰くつきのAIなのだから、通常なら体裁よく破棄されるものだ。

だが母に精神ダメージを与えるために復元し、対専用機として魔改造を施したのである

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