2019-08-23

[] #77-5「コラえて地獄

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コーヒーを飲みながら読書を楽しみ 憩いの場を提供したい

そして地元常連客を大事にしたい と店主は常日頃から考えていた

常連客:ここの店主 実験的にそういうサービスやりたがるんだよ

店内の音楽リクエストに沿って流したり 備え付けのテレビ動画サイト映像も見れるようにしたこともあったらしい

――結構カジュアルなんですね

店主:思いついたことは何でもやるってスタンスですね お客さんの要望にも可能な限り応えてます

その内の一つが 店内の本に栞を挟んでおけるサービスだったんだとか

読んでいる途中の本や 後で読みたい本などがあった場合に栞を提供してくれるらしい

――気になったんですが 栞に本の感想が書いてあります

店主:いつ頃だったか そういうことをやる人が出てきて それに感化されて他のお客さんたちも真似していった感じです

そうして自然発生的に 客たちは栞を介して感想を共有する文化をつくっていき 店主はそれに応えていった

――この星形シールは?

店主:栞に貼って使いますね 他人感想に「いいね!」と伝えたい時に使う人が多かったです

――ああ なるほど この星に書かれたアルファベットは そのお客さんの名前からとってるんですか

常連客:誰かに認知されてるって互いを意識させれば 栞に変なことを書こうとする奴もいなくなるだろって寸法だな

みんなで一つの本を読むという 地元のブックカフェならではのサービス

――つまり このカフェは店主とお客がみんなで作っていったんですね

店主:それはさすがに過言です

――あ そうですか……

ディレクターコメントは この町の住人たちに全然ハマっていない模様

――それにしても 聞いている感じだと中々に良さそうなサービスと思ったんですが やめちゃったんですか

店主:実際 これでお客さんは増えて 当時は嬉しかったですけどね……

常連客:まあ サービスの数や種類に比例して 身勝手なヤカラも増えたんだな

店主:サービスの選別は客の選別 その側面があることを当時はよく分かっていなかったもの

そうして色んな客が来るようになり 店の雰囲気を損なう結果に

――あらら……

常連客:あのランキング特にマズかったよな いま思えば

――ランキング

店主:星型シールあるでしょ それが多くのお客さんに貼られた栞は表彰されるんです

常連客:それで変な権威けができちまって 一部の客が居丈高になったんだよ

――ああ それでトラブルが起きたと

末期になると コーヒーや本を読むことが目的じゃなくなってる人まで出てきたんだとか

店主:本の内容そっちのけで 自分の主張を書いているのとかありましたね

常連客:しかも それで議論おっ始める奴らまでいてな

――まさか 栞で?

店主:そう 栞で

――でも この紙に書ける文字数 そこまで多くないですよね

店主:なので違う栞を 別のページに挟んで それに続けて書くんですよ

常連客:本来用途で使われなくなってやんの

――栞に書くことに固執しすぎでしょ 

常連客:そんなんだから 本に栞がビッシリ挟まっている状態になって キショいのなんの

憩いの場である筈のカフェで 居心地が悪くなってしまっては本末転倒

客が減ることを承知で栞サービスは終了したとのこと

店主:自分の栞に 自分で星形シール貼ったりする人もいましたね

常連客:一つの栞にたくさんシールが貼られてるんだが よく見てみたら それやったの全部同じ奴だったりな

タコトバッキョウシ』はアノニ町駅から徒歩数分

一風変わった本を 落ち着いた雰囲気の店内で コーヒーと共に

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