自宅から駅へ向かう途中、毎日同じ場所で寝ている野良猫がいて、いつもその猫を少しいじくってから出かけるのが習慣になっていた。
2年くらい経った頃だろうか。
あまりにいつも同じ場所で寝ているので、そこにいることが当たり前と思っていたその猫が、ふと姿を消した。
どうしたんだろう?場所変えちゃったのかな?それとも、ちょっと不健康そうだったから、亡くなっちゃったのかな?などと思いつつ、
1週間くらい、いつもの場所をさりげに通りながら通勤していた。
すると、ある日のこと。
その場所の前には個人経営の美容室があるのだが、私がそこの前を通ると、見知らぬお姉さんが元気に手を振りながら笑顔でこちらに向かってきた。
全く知らない人であったため、てっきり、自分の背後に違う人がいるのかと思い振り返ったが、誰もおらず、どうやら自分が目当てらしい。
呆気にとられていると、そのお姉さんは、
「いつもここで猫と遊んでたでしょう。あの猫ね、ガンで体調が悪くて、うちのお客さんが引き取って自宅に連れて行って、飼うことになったんだよ」
とのこと。
ああ、そうなんですか。てっきり死んじゃったのかなって。それは安心しました。などと言って、その場を離れた。
いずれにしても死に近い状況っぽいが、暖かくて安全なところで最後を迎えられたほうが良いだろうと思った。
向こうは一方的にこちらを数年間見ていたせいか、もはや知人くらいの感覚になっていた様子で、その一方で、
こちらは全くの他人だったため(光の具合で外から中はあまり見えない)、呆気にとられた出来事だった。
その店では、小型犬を飼っているみたいなので(窓際によく座っていた)、どうやら動物が好きな人なのだろう。
また、どことなく、親娘でやっているお店な様子だった。
それ以来、その場所から猫はいなくなり、以前は微妙に本来の道を外れてそこへ寄っていたため、その場所も、その美容室も、
すぐ近くに毎日みかけるものの、目の前にいくことはなくなっていた。
そして、それからまた1年半ほど経った昨日。
その美容室付近をたまたま通ると、丁度お店を閉めるタイミングだったらしく、
そのお姉さんっぽい人(視力が悪いため、少し遠目だとあまり見えない)が店の外でシャッターを閉めていた。
あれ?あの人かな?と目を細めていると、また元気にこちらに手を振ってくれて、あの時しか接点のない自分は、また呆気にとられてしまい、
あっ、っと一拍おくれて手を振り返した。
というのも、猫は毎日触っていたものの、その美容室の開いている時間に通るのは土日ばかりであり、私服姿であったため、
仕事帰りの今日はまるで出で立ちが異なっており、その上、だいぶ時間も経っていたので、向こうからこちらに気づくとは思っていなかったためだ。
たったこれだけのことで、少しドキっとしてしまい、この場所に引っ越して3年半程経つけれども、今度あの店に初めて行ってみようかしら?と、思っています。
創作なら殺すぞ 死ね