2016-02-29

牛丼屋で『傘寿』の読み方を尋ねる男性


雨が降るなか、腹が減ったので近所にある牛丼屋へ行った。その辺によくあるチェーン店牛丼屋。

夕方5時という微妙時間帯のおかげで客は自分ひとり。

カウンター席で値段350円の牛丼が運ばれてくるのをぼんやり待っていると、高齢男性がひとり入店してきた。その男性は店員に「こんにちわ」と声をかけ、店員もくだけた感じで「いらっしゃい」と男性を迎える。男性はどうやらこの店で顔なじみの客のようだ。男性は発券機で食事を注文したあと、私の真隣に腰を掛けた。そして「今日寒いなあ」などとカウンター越しに店員と会話しながら、おもむろに懐から1枚のはがきを取り出す。

男性)「この漢字の読み方が分からなくて。88歳はべいじゅだが、80歳は何て読むんだ」

店員A)「同窓会案内状?確かに88歳はべいじゅですね...80歳は...なんだろう」

店員B)「わかんないですね」

男性)「朝にもここで聞いてみたんだが、結局わからなかった」

店員A)「ちょっと待ってくださいねスマホで調べてみます

店員Aがひとりバックヤードへと駆けていった。厨房料理をするのにスマホ携帯していない。もう一方で残された店員Bは「漢字って本当に難しいですよね」「同窓会ですか?そういうのって良いですよね」などと男性と会話している。私はお祝いで80歳をなんと呼ぶのか知らなかったし、会話に参加することな牛丼を食べなが成り行きを伺った。そして男性が先ほど述べた「朝にもここで聞いてみた」という言葉が気になっていた。それはつまり男性がひとり暮らしで、朝晩の食事チェーン店牛丼屋で済ませており、1日のうちで他人と会話する(漢字の読み方を質問する)チャンスがこの場所に限られている事を示していたからだ。そうではないかもしれないけれど、その可能性は高いと思われた。

そう時間が経たないうちに店員Aが戻り、男性に「さんじゅって呼ぶそうですよ」と教えた(そうなんだなあ)。男性もそうかそうかと納得したようで、次にはがきに書いてある同窓会についての話で花を咲かし始めた。年齢の話になると店員に「おとうさん80歳だったんですか?もっと若いかと思ってました。全然80歳にみえないですよ」と褒められ、なんだか照れくさそうに口ごもったりする。同窓会幹事を「あの馬鹿が」と罵ってみたり、離れた出身地まで戻らねばならないのを「めんどくさい」とこぼしてみたり、店員たちと会話する表情はなんとも楽しそうである

正直に言うと私には男性が80歳かそれ以上に見えた。背中もかなり曲がっていて、格好もヨレヨレな感じであるしか店員に「80歳に見えない」と褒められ、楽し気に出生地同窓会についての話をする男性の姿はすこしだけ若返って見えたかもしれない。男性生活には、会話というものがどれだけ存在しないのだろうか。ひとりで生活している人間は、どこに他人との会話も求めて出かけていくのだろう。男性場合は近所の牛丼屋だった。

  • 会話をしたがる老人のクズは図書館に行く

  • まさかの2月号(いろいろな意味で)。 http://anond.hatelabo.jp/20160202122127 香りの記憶 香りとかメロディとか、言語化しにくい感覚と記憶が結びつくと、その記憶が掘り起こされたときよ...

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