2015-10-05

救済

 わたしが精神科に通いつつ大学に戻るのって、傷口を消毒しながら新たに傷を作り続けているようなもので。

 しかもその傷の正体が大学に住む魔物のような「なにか」かもしれないし、そもそも魔物なんていなくて、全て悪いのは「わたし」かもしれない。

 ここが厄介で、世界(特に親)は、ただただわたしに優しいのに、わたしの頭がおかしから魔物がいるだけって妄想してる、なんて医者は言う。

 そんなわけない、わたしは見えるんだ、彼らの心の底から思ってることが。わたしは出来損ないで失敗作だと思ってることが。

 どっちに転んだとしてもそれが怖くて傷をどんどん深くしていって、恐怖で震えるだけのわたしは、飛躍した思考で最終的に全世界ヘイトを広げて、Twitterで過激な人たちを身内他人わずさんざdisっては、disしか自分を守れない社会とわたしの醜さにケラケラと笑いつつ、アルコール睡眠薬精神安定剤を足して、クラクラしながら下品話題をひたすらに喋り続ける。

 医者が気づかないうちに処方量じゃ足りないくらいにベンゾジアゼピン依存して、元気なうちに溜め込んでた薬をガバガバ飲んで。

 社会が、世界が、そもそも社会に適合できない自分がもう嫌だから、酒飲んで薬飲んで死んでやれと思って、夏休みが終わる直前に、飲む薬の量、飲む酒の種類、アルコール度数嘔吐せず大量にアルコール摂取する方法、手遅れで親が気付くタイミング……と計算しながら、綿密な自殺計画を嬉々として立ててた。

 しかし、全く自殺未遂とは無関係の部分で、救急車に乗ることになった。

 デート中に、医者曰く「解離」で意識を失ってバスで突然倒れた。普段から過呼吸や脳貧血でよく目の前が暗くなっていたから、倒れる直前の行動も正しかったし、倒れ方もどうやらうまくて、どこもぶつけず怪我もせず、すぐ意識も戻った。

 ただ、バスの運行異常だということで、わたしが意識を失ってる間に救急車を呼ばれていた。とっくの昔に意識を取り戻したわたしは、そこにヘラヘラ笑いながら乗り込んだ。テキパキと働く救急隊員の人にわたしは「ごめんなさい、こんな私元気なのに」って言ってた。

 バスにはわたしが溺愛し、わたしを溺愛してくれる彼氏が一緒に乗ってて、倒れた瞬間も見ていたわけなんだけど、救急車に同乗する彼氏の手を握った。

 真冬の京都でもカイロみたいな温度のうちの人の手が、凍るように冷たかった。

 どっちが病人だよってまたわたしはケラケラと笑ったけど、彼の手をこんなに冷たくするくらいなら死なないほうがマシって思った。

 その日から安定剤と酒を一緒に飲むのをやめた。眠れなくても薬だけにした。

 どうしようもない社会不適合のメンヘラに、彼氏は言う。

 自傷が治るまで気長に待つからね、お薬飲まずにいられるようになるといいね、もしも社会ダメなら一緒にカフェゆっくり営もうね……そんなことを言われている。

 そんなことを言われても、わたしは死のうとしていたんだけれども。

 ――誰かわたしを助けてください

 結局のところメンヘラと呼ばれる人々の心からの願いはそれに尽きるんだと思ってる。

 南条あやメンヘラ神も私の友人の恋人も、現世では自分の心を救えず、救われず、薬物で、飛び降りで、死んでしまった。

 でも、あの世彼女らは救われてるんだろうか。

 そして現世で手の冷たさという救済をされたわたしは、自分に不適合な社会社会に不適合な自分シニカルに眺めつつ、今は安定剤のもたらす眠気と大学という現実に追われつつ、ひとまずはこの世に居座るしかないのである

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